artscapeレビュー
アテネの新古典主義と現代建築
2023年02月01日号
[ギリシア]
正月は博物館が閉まるので、街中の建築を見学した。まずパネピスティミオウ通り沿いの北側は貨幣博物館など、注目すべき建築が点在するが、とりわけアカデミー、アテネ大学、国立図書館が並ぶエリアは壮観である。これらは19世紀にデンマークのハンセン兄弟が手がけた新古典主義群による学術的な場だが、やはりギリシアの古代神殿を意識しつつも、ポリクロミーのテイストや、バロック的なダイナミズムの構成を加味したものだ。考えてみると、ギリシアの近世はイスラム国家の支配下だったため、いわゆる西欧的なルネサンス(=古代の再発見)を経験せず、いきなり新古典のデザイン(=18世紀以降のギリシアの考古学的調査に影響を受けたグリーク・リバイバル)となったが、しかも北欧の建築家の作品というのは興味深い。
現代建築としては、ミース・ファン・デル・ローエの《シーグラム・ビル》(1958)からもろに影響を受けたシンタグマ広場に面するビルや、抽象化された列柱が並ぶクリストファー・アレグザンダーによる巨大なコンサートホールなどをまわったが、これらに限らずいろいろなビルが、壁の表面を大理石で被覆しているのが、ギリシアらしい。
サンティアゴ・カラトラバが増改築を手がけた建築群がある郊外の、アテネ・オリンピック2004のスポーツ・コンプレックスはとても良かった。事前に詳しい情報が得られず、閉まったゲートを見て引き返すかもしれないと覚悟していたが、エリアは開放されており、近くの住民が思い思いに過ごしていた。吊り構造の屋根を増築したスタジアム、競輪場、エントランス・プラザ、巨大なアーチ群による弧を描く水辺の遊歩道、線状の部材がそれぞれ動き、波のようにふるまうナショナル・ウォールなど、東京オリンピック2020と違い、複数の施設と配置計画を手がけ、ここまで思い切り躍動感をもつデザインを全域に実現できると、建築家として気持ちよいだろう。改修した建築は、紛れもない彼の作品になっている。ちなみに、それぞれ単体の建築としては過剰な造形に見えるかもしれないが、遠くに山々が見え、屋根のシルエットが呼応していた。
2023/01/01(日)(五十嵐太郎)