artscapeレビュー

Frozen Screams 凍れる叫声 山川冬樹

2023年02月01日号

会期:2022/12/10~2023/02/10

SNOW Contemporary[東京都]

作品は計10点で、すべて正方形のキャンバスに同心円状の波紋が広がる白いレリーフ作品。きつめに張ったキャンバスを指で弾くとビンビン音がして気持ちいいが、このキャンバスを鼓膜または共鳴板に見立てて大理石の粉を盛り、下からスピーカーで大音響の叫び声を流して波紋をつくり、固定したという。つまり叫び声を視覚化したもの。作者は「絵画」といっているが、大理石の粉を盛り上げているので「彫刻」ともいえる。ところで、叫び声の視覚化といえばムンクの《叫び》が思い出されるが、中央が丸い空白になった今回の作品も叫んでいる口のかたちに見えなくもない。ただしムンクの絵の登場人物は叫んでいるのではなく、どこかから聞こえてくる叫びに耳を塞いでいるのだが。

山川が採集した叫び声はさまざまで、切腹直前にバルコニーから檄を飛ばした怒鳴り声から、AV女優がカメラの前でレイプされて泣き叫ぶ声、524人を乗せた航空機のパイロットが墜落寸前に発した怒声、名古屋入管で姉を殺された女性が報道陣のカメラの前で叫んだ声、そしてこれをつくったアーティストが生まれたときにあげた泣き声まである。いわば叫び声のコレクション。こうした叫び声をもっと精確な装置で厳密に波紋化したら、レコードの溝のようにその凹凸から叫び声が再生できるかもしれない。だからといってなんの役にも立たないが、イグノーベル賞の候補くらいにはなるだろう。



会場風景 [筆者撮影]


公式サイト:http://snowcontemporary.com/exhibition/current.html

2023/01/12(木)(村田真)

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