artscapeレビュー

Idemitsu Art Award展 2022

2023年02月01日号

会期:2022/12/14~2022/12/26

国立新美術館[東京都]

1956年に始まるシェル美術賞展を前身とする絵画のコンペ。余計なお世話だが、賞の対象も観客も日本人なんだから、タイトルは「出光アートアワード展」と日本語表記にすればいいのに、なんでわざわざ読みづらいアルファベットにするのかね(特に「Idemitsu」が読みづらいのは歳のせいだろうか)。

それはともかく、ざっと会場を見回すと、作品がいつも以上にどれもこれも似たり寄ったりに見えてくるのは歳のせいだろうか。しかもグランプリの竹下麻衣の《せんたくものかごのなかで踊る》(2022)も含めて、大半が地味で弱々しく感じるのは歳のせいだろうか。しつこいね。みんなさらっと描いただけでやたら余白が多く、一言でいえば薄味。イラストが絵画化した(その逆かも)80年代の日本グラフィック展(日グラ)を思い出す。グランプリの竹下の作品はさすがにツボを心得ていて、日グラに出したとしても受賞していそうだが、だとすれば時代は40年前と変わらないのか、それともひと回り巡ってしまったのか。

さて、5人の審査員賞と2人の学生特別賞、1人のオーディエンス賞を合わせた8人の受賞作品のなかで、インパクトがあったのは木村絵理子賞の高見基秀《あなた(の欲望)は燃えている》(2022)と、青木恵美子賞のナカバヤシアリサ《Untitled 刻む》(2022)くらい。高見はありえない風景のリアルな描写と鮮やかな色彩が際立っているし、ナカバヤシは逆に現実の風景をありえない色彩と巧みなコンポジションで再構築してみせた。

だがしかし、今回もっとも興味を惹かれたのは、過去の受賞・入選作家から4人を選ぶアーティストセレクションに出品していた中尾美園の作品。《紅白のハギレ》は掛け軸に日の丸とその解体された姿が描かれ、《ある家の図譜》にはタンスやカーテン、座布団、カレンダー、天井板、壁、雨戸など家の断片が日本画で記録されている。どちらも京都在住の女性の遺品がモチーフで、特に前者は残されていた日章旗をそのままシワやシミまで克明に描写したものと、それが切り取られたり落書きされたりツギハギされたりした姿を予想して描いたものを軸装して並べている。中尾は京都市芸の大学院で保存修復を学び、日本画による古典絵画の模写の技術をもつ異色の画家。緻密な観察に基づく博物学的な記録性や、シレッと日の丸を切り刻む大胆さ、そしてそれを並置して見せる発想など、日本画のみならずこれからの絵画の方向性に大きな示唆を与えてくれる。

公式サイト:https://www.idemitsu.com/jp/enjoy/culture_art/art/exhibition.html

関連レビュー

中尾美園「ある家の図譜」|高嶋慈:artscapeレビュー(2022年10月15日号)
中尾美園「紅白のハギレ」|高嶋慈:artscapeレビュー(2018年05月15日号)

2022/12/24(土)(村田真)

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