artscapeレビュー

クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”

2023年02月01日号

会期:2022/06/13~2023/02/12

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

2021年9月から約2週間、パリのエトワール凱旋門が巨大な布ですっぽり覆われた。このクリスト&ジャンヌ=クロードによる最後のプロジェクト《包まれた凱旋門》を紹介する展示が行なわれている。場所は21_21 DESIGN SIGHT(以下、21_21)、会期は8ヶ月という異例の長さに、21_21の創設者である三宅一生とクリスト夫妻との「布」を介した友情がうかがえる。と同時に、このプロジェクトを準備中の2020年に急逝したクリストへの追悼の意もあるのかもしれない(ジャンヌ=クロードは2009年に没)。その三宅もこの展覧会がオープンして間もない昨年夏に亡くなってしまった。20世紀がどんどん遠ざかっていくようで寂しい。

島々をピンクの布で囲んだり、巨大な傘を何千本も立てたり、いわくのある建物を布で包んだりするクリスト&ジャンヌ=クロードのプロジェクトは、どれも規模が大きく、莫大な資金とおびただしい許認可を必要とするため、実現までに数年、時に数十年かかることもあった。なかでも「包まれた凱旋門」が発想されたのは、彼らがパリで出会い、「梱包芸術」を始めて間もない1961年まで遡るから、実に60年かかったことになる。当初の実施予定は2020年だったが、コロナ禍により1年延期。その間にクリストが亡くなったが、プロジェクトは協力者に引き継がれて実現された。

パリのエトワール凱旋門は、ナポレオンの命により建てられた高さ50メートル、幅45メートルの巨大な歴史的建造物。しかも浮き彫り彫刻で装飾されているため、布を被せるにも傷つけないようにしなければいけない。なによりクリストが重視するのは、風になびくドレープの美しさだ。そのため、約2万5千平方メートルに及ぶリサイクル可能なポリプロピレン製の銀色の布と、それを縛る延3千メートルの赤いロープは、独自に開発したオリジナルのものを使ったという。

21_21での展示は、クリスト夫妻のこれまでの主要なプロジェクトを写真で振り返り、「包まれた凱旋門」のマケット、資金づくりのためのドローイング(コピー)、実現した「包まれた凱旋門」の写真、図面、プロジェクトに尽力したエンジニアや政治家らによるインタビュー映像などで構成されている。会場の一部には、実際に使われた銀色の布と赤いロープによる梱包の様子が部分的に再現され、その大きさが実感できる。それにしても、こんなことを思いつくアーティストもすごいが、それを許すパリという都市も太っ腹だとつくづく思う。日本でやるとしたら、東京タワーか、法隆寺か、太陽の塔か……無理だろうな。



展示風景 [筆者撮影]


公式サイト:https://www.2121designsight.jp/program/C_JC/

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