artscapeレビュー

アクロポリスの丘

2023年02月01日号

[ギリシア]

四半世紀ぶりにギリシアに滞在した。アテネに到着した翌日、アクロポリスの丘に登り、筆者がインタビュアーをつとめた『磯崎新の建築談義02 ギリシャ時代』(六耀社、2001)において、大文字の建築としてのパルテノン神殿について語ってもらったことを思い出していたあと、彼の訃報が届き、そのまま深夜に追悼文やコメントを執筆した。

共通チケットを購入すると、ほかにも劇場、古代アゴラ(ストアや音楽堂)、リュケイオン(運動施設)、ケラコミス(墓地)、 ゼウス神殿や浴場跡、 ハドリアヌスの図書館、ローマン・アゴラ(風の塔や市場)などをまわることができる。ギリシア時代だけではなく、ローマ時代の遺跡も少なくないが、これらをコンプリートすると、古代都市のイメージが浮かびあがる。



ローマン・アゴラ風の塔




ケラコミスの墓地




ハドリアヌスの図書館


アクロポリスは最終日にもう一度訪れたが、街を歩くと、ときどき通りの向こうにアクロポリスが見える。昔は高いビルがなかったから、もっと目立ったはずだ。明らかに異形の岩山として存在し、要塞として使われたり、聖なる場所として認識されていたことが納得できる。ちなみに、19世紀に復元された第一回近代オリンピックの会場になったパナティナイコ・スタジアムの観客席からも見えるのは興味深い。

ルネサンスの時代はオスマン帝国のエリアだったため、18世紀に弱体化するまで、パルテノン神殿の正確な建築情報はあまり知られておらず、建築のチャンピオンという位置づけになったのは、19世紀からである。20世紀になると、ル・コルビュジエほか、さまざまな建築家がここを訪れ、自身の立ち位置を確認した。堀口捨己のように、西洋の模倣をやめて、日本回帰するきっかけになったケースもある。

ところで、立派な大理石の建築をつくると、社会が変化しても簡単に壊されず、パルテノン神殿が教会、モスク、火薬庫などに転用されながら、残ったことは興味深い。言うまでもなく、現代では外貨を稼ぐ重要な観光資源となり、この状態は今後もずっと続くだろう。すなわち、アテネの守護神アテナイ神を祀る神殿という本来の用途として機能した時間の方が、もはや圧倒的に短い。絶対的な存在として神格化するのではなく、長い歴史をサバイバルするリノベーションという視点から、もっと研究すべき建築だろう。

*artscapeレビュー「アテネのビザンティン建築」の画像が誤って掲載されておりました。謹んでお詫び申し上げます。正しい画像を掲載いたしました。(2023年2月6日編集部追記)

2022/12/30(金)(五十嵐太郎)

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