artscapeレビュー

鉄道と美術の150年

2023年02月01日号

会期:2022/10/08~2023/01/09

東京ステーションギャラリー[東京]

アーティストの世界観にどっぷりと浸かるのは美術館の醍醐味だが、特定のテーマを設け、博物館的な内容と交差させた企画も、歴史の深さと表現の多様性を大いに楽しむことができる。タウトに始まり、柳宗悦、ペリアン、今和次郎という安定のラインナップに玩具収集、今の弟純三による青森の考現学的なスケッチ、前衛弾圧後の吉井忠などの美術を加えた前回の「東北へのまなざし1930-1945」展と同様、鉄道開業の150周年を記念した東京ステーションギャラリーの今回の展覧会は、美術の外側、すなわち歴史に対するさまざまな補助線を引いていた。初期の鉄道絵画は、「電線絵画展─山口晃まで─」展(練馬区立美術館、2021)ともかぶり、必然的に電線・電柱が多く登場し、美醜を超えたテクノスケープへのまなざしを追跡できる。が、この展示はさらに日本の近代史を照らしだす。例えば、満洲写真作家協会によるロマンティシズムあふれる大陸の風景、かつて存在した踏切番の写真、機関紙の過酷な労働や東京駅で弁舌を振るった運動家の絵画、1930年代の外国人誘致のための宣伝ポスターなどである。

敗戦後の東京駅に関しては、連合国軍の専用待合室として、建築家の中村順平が指揮し、建畠覚造ら5人の彫刻家に制作させたグレートモニュメントRTOレリーフ(1947)が紹介されている。これは駅の改装に伴い、1974年に壁板で覆われたが、保存復元工事の際に再発見され、現在は京葉線改札口の外に設置されており、すぐに見に行った。中村はパリに留学し、横浜高等工業学校建築科(現横浜国大)で教鞭をとり、客船のインテリアや銀行のレリーフなどを手がけた(そのひとつは馬車道駅に移設)。ほかにも今回、福沢一郎の《天地創造》を原画とする大きなステンドグラス(1972)が、東京駅内にあることも初めて知った。



RTOレリーフ 田畑一作《鎌倉やぶさめ》




RTOレリーフ 建畠覚造《江戸の船出》




馬車道駅に移設された中村順平のレリーフ




福沢一郎《天地創造》を原画とするステンドグラス


展覧会の後半は、ハイレッドセンターの山手線のパフォーマンス、満員電車の写真、シベリア抑留の記憶を描いた香月泰男、1970年代の「ディスカバー・ジャパン」のキャンペーン・ポスター、中村宏や立石大河亞らをとりあげる。現代史の記憶を刻む作品としては、地下鉄サリン事件に関して小沢剛の「地蔵建立」、阪神・淡路大震災を受けた島袋道浩の《人間性回復のチャンス》(1995)、そして原発事故をモチーフとしたChim↑Pomによる渋谷駅の《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》(2011)が登場した。まさに鉄道と美術を通じて、日本の近現代史を駆け足でめぐるものだった。



《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」展(2022)、森美術館



公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202210_150th.html

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