artscapeレビュー

アテネのビザンティン建築

2023年02月01日号

[ギリシア]

アテネといえば、どうしてもギリシア時代の神殿のイメージが強いが、実はビザンティンの教会が街のあちこちに数多く存在することも見逃せない。東ローマ帝国のもとでビザンティン文化が栄え、イスタンブールのハギア・ソフィアやイタリア・ラベンナのサン・ヴィターレ聖堂がよく知られている建築だが、ギリシアにも小さい名建築がつくられている。外観は、中央にぽこんとかわいらしいドームが飛びだし、正面や両サイドはペディメント状の妻をもつタイプが多い。おおむね古い教会は、現在の地面よりも低くなっており、サンクンガーデン状になった空間の階段を降りて、半地下のレベルから室内に入る。なまじ西ヨーロッパのゴシックの大聖堂に慣れていると、大きな開口がなく、中央ドームの上部からのわずかな採光による薄暗い内部の空間がもつ雰囲気との違いに驚かされるだろう。特に古い教会は、外壁も統一されたデザインではなく、古代の円柱などを転用し、組み込む手法、すなわちスポリアがよく使われている。



古代アゴラの教会




カプニカレア教会




テセイオン駅近くの教会



アギオス・エレフテリオス教会


アテネのキリスト教の歴史を学べるのが、ビザンティン&クリスチャン博物館だ。中央に19世紀のヴィラ風の建築があり、両サイドの主に地下空間に展示室が続く。向かって右側が展示の什器やデザインが洗練された常設、左側が企画展示のエリアになっている。ここは美術品だけでなく、柱頭や床のモザイク画など建築の部位を展示したり、壁画を空間ごと再現しており、建築史を知るのにも絶好の場所だ。一般的に中世を迎えると、人間や動物のモチーフが入り、柱頭は自由なデザインになるが、注意深く観察すると、キリスト教の建築に変化したからといって、イオニア式やコリント式など、古典の細部がいきなり消えたわけでなく、かつてのモチーフが変容しつつ、薄れていった経緯がわかる。もちろん、前述したスポリアによる混入もあるだろう。一方で柱頭の意匠のなかに、さらにミニ柱頭が含まれるという古代ではありえないようなデザインも見いだせて興味深い。また組紐文様など、ケルトの装飾を連想させるものも散見された。



ビザンティン&クリスチャン博物館




変容するイオニアやコリント




柱頭の中に柱頭


*artscapeレビュー「アクロポリスの丘」に本項に掲載すべき画像が誤って掲載されておりました。修正し、謹んでお詫び申し上げます。(2023年2月6日編集部追記)

2022/12/31(土)(五十嵐太郎)

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