artscapeレビュー

面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画

2023年02月01日号

会期:2023/01/01~2023/01/29

そごう美術館[神奈川県]

片岡球子といえば豪快な富士山の絵で知られる日本画家だが、今回は日本の歴史的人物をモチーフにした「面構」シリーズのみの展示。このシリーズを始めたのは1966年、球子61歳のとき。「私の絵の最後の仕事に入らねばと思ったのです。人生の最後まで持ち続けられる題材を見つけようと思ったのです」と語っている。つまり還暦を過ぎ、画業の仕上げとしてこのシリーズを始めたわけだが、以来103歳で没するまで40年余りのあいだに44点もの大作をものするとは、本人も思ってもみなかっただろう。ちなみに富士山のシリーズもこのころからなので、彼女の画業は還暦すぎから始まったといっても過言ではない。すごいなあ。

展覧会には僧侶や歌舞伎役者を描いた戦中戦後の作品も出ているが、「面構」シリーズとしては1966年の足利尊氏、義満、義政の足利三代将軍の肖像画を嚆矢とする。足利氏の菩提寺にある彫刻を見てイメージを膨らませたというが、その彫刻も江戸時代の作なので、似ているかどうかは問題ではない。そもそもゲテモノ扱いされた球子の絵に似ているも似ていないもないし。そんなことより球子は人物の魂をえぐり出したかったのだ。3人の将軍はそれぞれ黄、赤、青を主調としているが、それは異なる個性を表わしているという。いずれも画面に向かって左寄りに描かれているのが奇妙だが。

その後も徳川家康、日蓮、豊太閤らが描かれたが、1971年から北斎、歌麿、広重ら浮世絵師に絞られていく。画家に絞ったのは、女性画家の球子としては武将より思いが入れやすかったからではないかと推測できる(ただし女性を描いたのは北斎の娘のお栄くらいで、女性に肩入れすることもなかった)。画家を選んだもうひとつの理由は、画中画が描けるからではないか。北斎なら富士山、写楽なら大首絵というように、その画家を特定するモチーフを再現できる楽しみがあったに違いない。実際、画家の「面構」の大半にはその画家の代表作が画中画として組み込まれている。ただ画中画ファンとしては、画家の横または背後にまるでアリバイのように画中画を描いているだけなので、あまりに芸がないといわざるをえない。

では、画家のなかでもなぜ浮世絵師に絞ったのか。晩年には雪舟も登場するが、大半は浮世絵師と戯作者に占められている。それはおそらく球子が琳派や狩野派のような高級芸術ではなく、庶民芸術の浮世絵に親近感を抱いていたからだろう。また、外連味のある大袈裟な浮世絵の表現が自分の絵に通じると感じたのかもしれない。そこで思うのは、もし球子が日本画ではなく油絵で「面構」を描いたらどうだっただろう? もちろん還暦を過ぎて油絵に転向するのは無茶な話だが、もとより球子の絵はコテコテと油絵っぽいので違和感はないし、日本の歴史上の人物だからこそ日本画ではなく西洋画で表現することに意義があると思うのだ。余計なお世話だけど。


公式サイト:https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/archives/22/kataokatamako/

関連レビュー

片岡球子 展|福住廉:artscapeレビュー(2015年06月01日号)

2023/01/05(木)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00063721.json l 10182625

2023年02月01日号の
artscapeレビュー