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没後40年 朝井閑右衛門展

2023年06月01日号

会期:2023/04/22~2023/06/18

横須賀美術館[神奈川県]

朝井閑右衛門(1901-83)というと、名前の響きからも、ちょっと時代遅れの昭和の洋画家のひとりくらいにしか思っていなかった。しかし近年になって、日中戦争において最初の戦争画を描いたり、戦後アトリエ近くの電線をモチーフにしていたことを知り、これはひょっとして電波系の画家かもしれないと思い始めた矢先の回顧展。これは少し遠いけど見に行かねば。

朝井は戦前、ピカソやシュルレアリスムの影響からか、1936年に幻想的な作風の《丘の上》が文展で受賞し、注目を浴びる。翌年日中戦争が始まり、通州事件に取材した《通州の救援》(1937)が第1回新文展に入選。これが日本の戦争記録画の最初の作例とされるが、作品は現存せず。以後、戦争記録画の制作に携わり、何度も中国とのあいだを往復する。今回の出品作品には明白な戦争記録画は見当たらないが、海岸風景を描いた《大王崎》(1944)はよく見ると沖に何隻か戦艦が停泊しているのがわかる。一方《豊収(誉ノ家族)》(1944)は、荒野を背景にした母子像だが、「誉ノ家族」は夫を戦争で亡くした母子家庭のことなので、どちらも広い意味で戦争画の一種といえるだろう。

また、3年前に練馬区立美術館で開かれたユニークな「電線絵画展」では、朝井の電線絵画が水彩を含めて6点も出ているうえ、彼自身「ミスター電線風景」と称されていたので、戦後は電線風景ばかり描いていた画家かと思ったらそんなわけがなく、今回は3点しか出ていなかった。それにしてもなんと力強い電線だろう。朝井には電線を走る電磁波エネルギーが見えていたのかもしれない。結局、電線絵画は1950年代に取り組んだモチーフのひとつにすぎず、本人はむしろ「人物画家」を自負していたらしい。確かに三好達治、草野心平、室生犀星、萩原朔太郎ら文士を描いた肖像画は味わい深いものがある。でも晩年は、所有していた絵壺やフランス人形、バラの花など洋画の定番モチーフばかりになってしまったのが残念。


公式サイト:https://www.yokosuka-moa.jp/archive/exhibition/2023/20230422-741.html

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