artscapeレビュー

大阪の日本画

2023年06月01日号

会期:2023/04/15~2023/06/11

東京ステーションギャラリー[東京都]

日本画壇といえばなんとなく東京と京都が有名で、大阪にもあったっけ? そういえば大阪中之島美術館の開館記念展で大阪の風俗・風景を描いた日本画を何点か見たなあ、戦前には珍しく女性画家も何人かいたような気がする、程度の知識しかなかった。そもそも東京から見れば京都も大阪もすぐ隣だから区別がつかないし、お互いに文化の違いを強調し合うのが滑稽に思えてしまう。それはともかく。

展覧会は人物画、風俗画、文人画など6章に分かれているが、おもしろかったのは北野恒富の人物画を中心とする第1章、大阪の風俗・催事を描いた第2章、新しい表現と女性画家の作品を集めた第6章あたり。会場に入るといきなり北野の作品が10点ほど続くので、あれ? 北野恒富の回顧展だったっけと勘違いしそうになる。その女性像は、中期・後期になると様式化されてつまらなくなるが、初期の《摘草》はリアリズムに徹していて妖艶。大阪らしさを感じるのは、第2章の菅盾彦の《浪速文人図》や《阪都四つ橋》(1946)、その弟子の生田花朝による《住吉大社御田植》《浪速天神祭》など、近代化により消えゆく大阪庶民の古きよき生活文化を描いた「浪速風俗画」。これらは歴史的にも資料的にも価値があるが、そのローカリティゆえに大阪以外ではほとんど知られることがなかったようだ。

興味深い作品が固まっているのは最終章の「新しい表現の探究と女性画家の飛躍」だ。まず目が止まったのは、上島鳳山の《緑陰美人遊興之図》(1909)。古代風の女性がブランコ遊びに興じる、ある意味ロココ風のチグハグな主題で、色白の肌に怪しい流し目が妙にリアルで困っちゃう。第3回文展に落選したというが、審査員も困っちゃっただろう。同じ作者による神武天皇を描いた《皇祖尊影》は撮影禁止。禁止されているのはこの作品だけなので、主題ゆえか、それとも所有者(個人)の意向か。

日本画では珍しく空間表現で目を引く作品もあった。山口草平の《人形の楽屋》と幸松春浦の《魚游》だ。《人形の楽屋》は文字どおり文楽人形が置かれた楽屋を描いた屏風絵だが、右隻には上り階段、左隻には下り階段が配され、しかも2曲一双のため現実に折り曲げて展示されているので、まるでエッシャーの位相空間を思わせる。そのうえ色彩はほとんどモノクロームで全体に薄暗く、人形は衣裳をつけたまま吊るされているため、首吊り現場のような不気味さが漂う。《魚游》のほうは、石の川底の上を数匹の小魚が弧を描くように泳ぐ姿をほぼ真上から捉えた作品。日本画に描かれる魚はたいてい陸に上がって横から見た姿か、せいぜい池を泳ぐ鯉の姿くらいで、このように深度がわかるくらい川底まで透視した日本画は珍しい。よっぽど魚を見るのが好きなんだろう。

最後に紹介されるのが島成園や木谷千種ら女性画家たち。大阪では江戸時代から女性画家が活躍し、また富裕層は子女に絵を学ばせる習慣があったため多くの女性画家を輩出したのだという。ただそれでもモチーフは女性と子供に限られ、男性が描かれているのは唯一、木谷の《浄瑠璃船》の登場人物8人中2人だけ。なんでも自由に描ける時代ではなかったのだろう。ちなみに今年は「女性画家たちの大阪」展も開かれるので、そちらにまとめて出されるはず。

ところで、日本画は油絵に比べて画材が脆弱なので、展示するにも油絵より制約が多くなる。今回は作品保護のため出品作品の半数くらいは陳列ケースに入れてあるので、ガラス越しに見なければならなかった。最近は油絵も大半が額縁にガラスが嵌め込まれているが、ガラスや照明の精度が上がったためほとんど気にならない。しかし日本画の場合、掛け軸や屏風などはガラスケースに入れなければならず、どうしても作品との距離が遠くなってしまうのだ。もうひとつの制約は、作品の入れ替え制。日本画や古美術の場合、長時間光に晒すのを避けるため、展覧会を前期と後期に分けて作品を入れ替えることが多い。今回は総点数155点にも及ぶが、内覧会で見られたのは半分強の88点だけなので、すべての作品を見るには2回行かなければならないのだ。もちろん入館料は2回払わなければならず、せめて前期を見た人は後期を半額にしてもらいたい。


公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202304_oosaka.html

2023/04/14(金)(村田真)

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