artscapeレビュー

トリノの建築とダリオ・アルジェント

2023年06月01日号

[イタリア、トリノ]

これまでは外見のみで、内部に入るのは初めての《モーレ・アントネッリアーナ》(1889)を訪れた。独特の形状からそうかもしれないと思ったが、もともとはシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)として依頼されたものの、建築家アレサンドロ・アントネッリの計画が誇大化し、施主が離れるという特殊な経緯でつくられたトリノのランドマークである。まだモダニズムになる前の19世紀末の過渡期のデザインとその後に施された補強が興味深い。吹き抜けの中心を貫く驚異的なエレベータで昇ると、展望台からの眺めは抜群で、遠くのアルプスは街の原風景になっていることがわかる。現在、ここは国立映画博物館となり、常設は視覚技術の進化から映画の誕生、そしてさまざまな角度からの映画史を紹介する。今回の目的は、イタリアのサスペンス、ホラー映画の巨匠、ダリオ・アルジェントの企画展だった。動物やアートがよく登場するといった作品の特徴、ロケ地を紹介するが、日本未公開の作品が結構多い。そして最後にタランティーノ、ギレルモらに加え、吉本ばなながコメントを寄せる。


モーレ・アントネッリアーナの外観


吹き抜けまわりのスロープを使って開催されているアルジェント展/中心はエレベータ


アルジェント作品に登場するアート


実はアルジェントの美学が全開の映画『サスペリア2 Profondo Rosso』(1975)の舞台となったのが、トリノである。まず冒頭の印象的な劇場は、カリニャーノ宮の向かいの《テアトロ・カリニャーノ》だが、残念ながら、室内の赤い空間には入れなかった。

すぐ近くのロケ地、ガラス・ブロックを用いたガレリア・サン・フェデリコを散策すると、映画館があり、ここでもおそらく当時『サスペリア2』を上映したはずだ。特に現地で確認したかったのは、トリノに以前訪れた際は見た記憶がなく、こんな場所があったのか? と後日思ったサンカルロ広場の手前の彫像である。なるほど実在したが、構図のシンメトリーを強調することで、それをさらに引き出したのが、映画なのだと納得した。そもそもトリノは絵になる整然とした都市デザインをもつ。

惨劇が起きた不気味な屋敷として描かれた《ヴィラ・スコット》(1902)も見学したかった建築である。リバティ様式のラベルだけでは片付けられない奇妙な装飾が気になったからだ。これは郊外に実在し、丘を登って現地に足を運ぶ。映画では廃墟だったが、いまは高級な住宅として使われていた。アルジェントの魔術でかなり印象を変えていたことがうかがえる。


テアトロ・カリニャーノの外観


ガレリア・サン・フェデリコのシネマ


サンカルロ広場前の彫像


ヴィラ・スコット



DARIO ARGENTO - The Exhibit

会期:2022年4月6日(水)〜2023年5月15日(月)
会場:Museo Nazionale del Cinema(Montebello, 20 10124 Turin, Italy)

2023/03/15(水)、16(木)(五十嵐太郎)

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