artscapeレビュー

広島!

2009年05月01日号

会期:2009/03/20~2009/03/22

Vacant[東京都]

広島の上空に「ピカッ」と落書きして大目玉を喰らったChim↑Pomが、広島市現代美術館での個展で発表する予定だった作品を原宿で公開した展覧会。飛行機雲で描いた「ピカッ」の映像と写真、実物大の丹頂鶴のフィギュア、そしてことの発端となった中国新聞の記事を模写した作品などを展示した。映像をじっくり見てみて思い至ったのは、青空に薄い線で描かれた「ピカッ」の三文字が、原爆の再現劇として読み取られかねないことは事実だとしても、その一方で、のどかで平和な暮らしを満喫する私たちの現代社会のありようを端的に表現しているということだ。もともと薄い飛行機雲だということを差し引いたとしても、たとえば「ピ」は「ッ」が描かれている頃にはすっかり消えてしまっているほど、三つの文字は、どれもはかない。マンガのオノマトペであれば、シャープな描線によって輪郭が明確に縁取られるのだろうが、「ピカッ」はマンガ的ではあるとはいえ、それほど力強くはなく、むしろか弱い。青空という広大な空間にたちまち呑み込まれてしまう、薄く、細く、短命な描線。これこそ、私たちの時代の原爆美術が内側に抱えている表象不可能性の現われではないだろうか。今回の個展によってChim↑Pomが原爆美術にとっての新たな道のりを切り開いたことはまちがいない。ベッドメリーのように吊るされた千羽鶴のなかで群れをなす丹頂鶴たちは、その未知の道を模索しながら飛んでいく彼ら自身であり、私たち自身でもある。

2009/03/21(土)(福住廉)

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