artscapeレビュー
アーティスト・ファイル2009──現代の作家たち
2009年05月01日号
会期:2009/03/04~2009/05/06
国立新美術館[東京都]
国立新美術館の恒例企画。「とくにテーマを設けず、学芸スタッフが日ごろのフィールドワークの中で注目する作家たちを取り上げ、それぞれ個展形式で紹介する展覧会」だ。全国の公立美術館でエゴイスティックなだけの奇天烈きわまりないテーマが恥ずかしげもなく披露されていることを考えれば、共通するテーマを設定しないことは、ひとまずよしとしよう。けれども、それにしても気になるのは「フィールドワーク」という言葉。学芸スタッフが日ごろどんなフィールドワークをしているのだろうと不思議に思って図録を開いてみたが、それを伺わせる記述はほとんど見受けられない。フィールドワークとは、数値や文字として表象される以前の「生」のデータを収集するという明確な目的意識にもとづきながら、特定の対象や現場に継続的に入り込む活動を指している。であれば、学芸スタッフが鑑賞者に説明しなければならないのは、美術評論家のように作家論を論じることではなく、むしろそのフィールドワークの正確な報告と、それを根拠にして当該作家を取り上げることの根拠を論理的に説く推薦文の公表ではないか。鑑賞者と美術評論家のあいだが限りなく近づいている今、中途半端な作家論に耳を傾けてやるほど鑑賞者は寛容ではない。学芸スタッフとしての職責をまっとうに果たしてほしい。
2009/03/30(月)(福住廉)