artscapeレビュー
トロマラマ
2010年09月01日号
会期:2010/07/24~2010/11/07
森美術館 ギャラリー1[東京都]
トロマラマはインドネシア在住の3人組で、大量のボタンやビーズなどでコマ撮りアニメーションを制作するユニット。とりわけ抜群だったのが、木版画の版木をもとにミュージック・ビデオに仕立て上げたアニメーション作品。(音楽も含めて)その映像が「クール」だとは到底言えないが、しかしローテクならではの奇妙な映像体験をもたらしているのはまちがいない。アップテンポのロックに合わせて次々と変化していく画面は、たしかに高速の時間を体感させるが、それらが版画とコマ撮りというそれぞれ長大な時間を費やして制作されたという背景を知ると、圧縮された時間のなかから部分的に解凍された時間が果てしなく漏れ出てくるかのように錯覚して、時間を二重に経験することができる。デヴィッド・ハーヴェイはポストモダン社会の条件として「時間と空間の圧縮」を挙げていたが、トロマラマはこうした時間の多重性こそポストモダン社会の同時代的なリアリティーであることを端的に示している。これは、同時期に隣接する会場で催されている「ネイチャー・センス」という恐ろしく大味で、無常というより、ただ空疎な展覧会などよりも、よっぽど時間と空間に根ざした現在の自然観を的確にとらえていた。
2010/07/23(金)(福住廉)