artscapeレビュー

平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)『森の奥』

2010年09月01日号

会期:2010/06/21~2010/06/28

愛知芸術文化センター小ホール[愛知県]

あいちトリエンナーレ2010関連公演。2030年。ボノボを人間並みの頭脳に進化させる目的で集まった研究者たちと2体の助手のロボットが主要登場人物。まるでプラトンの対話編のように「人間とはなにか」「動物とはなにか」「ロボットとはなにか」について人間と人間、のみならず人間とロボットとのあいだで議論が交わされる。胸のあたりで赤いパルスが動く黄色い2体のロボット。本作の見所はこれが人間と一緒に演じるところ。はっとさせられるのは間で、人間の役者と呼吸がじつにうまく合っている(アフタートークで、役者がロボットに合わせているところもある、とのことだった)。平田オリザと石黒浩が目指したのは「うまく合っている」と観客に見せかける自然主義に相違ない。しかし、ロボットとの会話ならば間が合わないほうが自然である、という考え方もありうるだろう。要は、ロボットにどんなことを要求するのか、どんな性能を与えるのかという設定こそ重要なはずで、残念ながらその設定が不明確だった。例えば、なぜこの研究に(人間ではなく)ロボットが助手として参加しているのか、など。最後の場面、個々別々の思いを抱えた人間たちが滝に現われる虹を見に行くところで、ビールを持ってくるように頼まれたロボットたちが「ビールを持って行くより消えそうな虹を見逃さないほうが大事だ」と依頼を後回しにした。感情はないとした(これは設定されていた)ロボットに感情の芽生えを察知させるロマンチックなエンディングから、ロボットの人間化が二人の作者の目指すところと解釈しうる。けれどもそのベクトルだけがロボットの未来ではないだろうし、ロボット演劇の未来でもないだろう。

2010/08/24(火)(木村覚)

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