artscapeレビュー
室伏鴻『常闇形 Hinagata』
2010年09月01日号
会期:2010/08/18
snac[東京都]
同会場で行なわれているChim↑Pom「Imagine」展に室伏鴻が触発され突如行なわれた本公演。「見えないことを想像する」というChim↑Pomのテーマを舞踏者が引き受けるとどうなるかといった問いに答える意欲作となった。「闇のなかで踊るなんてギャグかよ!」と突っ込みたくなる気持ちは、床や壁をガリガリとひっかく音が小さい会場に響きはじめると消えてなくなった。ああ、室伏は目のみならず耳にも訴える舞踏者だった、と思い出した。かすれる呼吸の音、小さな叫び声、体をよじるときのうめく声、激しい声……。その声が、ときに鳥のように、ときに赤ん坊のように、ときに得体の知れない怪物のように聞こえる。物まねではない。模倣の技量に驚くわけではない。ただただ、室伏の「なること(生成変化)」に巻き込まれ、導かれ、置いて行かれてしまう、その事態に唖然とし、その一瞬一瞬を堪能する。目が慣れて薄闇になったあたりで、激しい上下動を繰り返しながらうめき声を上げたとき、その反復動作が次々と似て非なるイメージを生み出していった。差異と反復。室伏を見ること以外では生まれえない豊かで知的で野蛮な時間がこの夜は生まれた。真鍮板、白いオーガンジー、塩など、過去のソロ作品でも彼にはパートナーがいた(そうした姿勢はジーン・ケリーに似ている)。生成変化のトリガーとして今回の「闇」はなかなかよいパートナーだったといえるかもしれない。近年では、海外公演が多い室伏だが、日本の観客にも雄姿をもっとみせて欲しいものだ。
2010/08/18(水)(木村覚)