artscapeレビュー

伝説の報道写真家・福島菊次郎 写真展

2010年09月01日号

会期:2010/08/14~2010/08/16

府中グリーンプラザ展示ホール[東京都]

福島菊次郎は反権力の報道写真家で、現在89歳。山口県で活動する現役のカメラマンだ。この写真展は、福島による約300点あまりの写真で構成されたパネルを展示したもの。あわせて近年の福島の暮らしを追ったドキュメンタリーテレビ番組も公開された。福島がファインダーを通して目撃したのは、自衛隊のほか、広島の被爆者、軍需産業の工場、そして島々の村落。なかでも被爆で辛酸を舐めさせられた一家に持続的に密着して撮影した写真はすさまじい。福島による短文が添えられたモノクロの写真からは、被爆によって壊された身体の痛みはもちろん、ずさんで無神経な行政への怒り、壊れかけた家族の紐帯への悲しみなどがひしひしと伝わってくる。「芸術と社会の関係」などという浮ついた言葉では決して語ることのできない、文字どおり全身で社会と格闘する写真家だ。福島が撮影した写真の多くは瀬戸内海を舞台としているが、アートクルージングでは見えてこない芸術と社会の一面を福島の写真は見せてくれる。

2010/08/15(日)(福住廉)

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