artscapeレビュー
本橋成一 写真展 昭和藝能東西
2010年09月01日号
会期:2010/07/21~2010/08/03
銀座ニコンサロン[東京都]
昭和の時代に栄えていたさまざまな芸能の現場をとらえた写真展。見世物、落語、相撲、ストリップ、小人プロレスなど、いまとなっては郷愁を誘ってやまない、あるいは初めて見る、数々の芸能の一面を目にすることができた。それらの生き生きとした雰囲気はじつに魅力的であり、だからこそそれらが失われつつある現状を省みると、心の底から侘しくなる。かつて福田定良は新しい大衆演芸の条件として「芸術の楽しさと生活の匂い」を指摘していたが、今日の社会にあってこうした芸能の現場が失われつつあるということは、芸から生活の匂いが消えていることだけではなく、暮らしの匂いそのものが根絶されているということなのかもしれない。例えば、近年芸能に対して道徳意識を過剰に求める傾向が強いが、そもそも芸能とは、かねてから「ヤクザ者」の世界にあるのであり、これに一般的な倫理意識を当てはめようとすること自体が筋違いである。雑多な匂いを感じ取ることがない世界は、退屈であり、なおかつ恐ろしい。
2010/07/30(金)(福住廉)