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近代百貨店の誕生 三越呉服店

2016年05月15日号

会期:2016/03/19~2016/05/15

江戸東京博物館[東京都]

百貨店の展覧会なのに、いきなり明治初期の博覧会の紹介から始まり、その博覧会から博物館に移行し、勧工場を経てようやく三井呉服店、三越百貨店の話になる。事情に疎い人は面食らうだろうが、これはモノの集め方、見せ方の劇的変化を物語っている。江戸時代の呉服店が近代的な百貨店に生まれ変わるには、商品の陳列革命が必要だった。その過程を物語る場として博覧会や博物館、勧工場を取り上げているのだ。江戸時代の呉服店では商品は陳列されず、客は畳に上がって「これこれこういう品物を」と希望を伝え、店員はそれに見合った商品を出してくる「座売り方式」だった。それが明治になると呉服店も博覧会(日本では博物館のルーツ)を見ならって品々を展示公開し、それを客が見て選ぶ「陳列販売方式」に変わり、百貨店が誕生する。つまり百貨店の前提は博覧会・博物館と同じく「見る」ことだった、というわけだ。ちなみに勧工場とは百貨店に先駆けて、博覧会の残り物を陳列販売した商業施設のこと。だから勧工場は博覧会と百貨店をつなぐ橋渡し役を果たした店といえる。このようにモノを集めて見せるというのは近代の基本中の基本だ。考えてみれば博覧会も博物館も百貨店も、すべて「たくさんのモノを集めて見せる場所」といった意味ではないか。

2016/04/20(水)(村田真)

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