artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
笹川治子「Study Room no.6221」
会期:2013/10/25~2013/11/04
ヨシミアーツ[大阪府]
今年7月に大阪のホテルで開かれたアートフェアで行なわれたパフォーマンスのドキュメント展。ホテルで開かれるアートフェアというと、個々の客室がギャラリーのブースになり、ベッドやバスルームに作品を飾って観客が見て回るものだが、ヨシミアーツから出品した笹川は「作品」を出すのでなく、客室でパフォーマンスを公開した。それはひとりの女性(作者ではない)が会期中ずっと部屋にいて、端から見れば不可解な行動をとり続けるというもの。「作品」を期待して入って来た観客は、浴衣姿の若い女性がなにかしているのを見てさぞかしとまどったことだろう。それにしても高いショバ代を払って売れないパフォーマンスをやらせるとは、画廊もずいぶん太っ腹というほかない。もちろんお金はどこかで回収しなければならないので、今回DVDやテキストをつくってドキュメント展を開いたわけだが、これが爆発的に売れるとは考えにくい。いずれにせよ年々セコい小品を売る画商が増えているアートフェアに、風穴のひとつでも開けたとすれば拍手喝采。
2013/10/26(土)(村田真)
藤田嗣治 展
会期:2013/09/01~2014/01/31
山王美術館[大阪府]
なんばに完成したホテルモントレ グラスミア大阪の22階に山王美術館がオープンし、ここでも藤田展をやってるとの情報を得たので見に行く。出品作品はこの美術館のコレクションらしいが、そもそも山王美術館がだれの(どこの)コレクションに基づく美術館なのか、運営主体が不明だ。別にいいけど。出品された藤田作品は26点で、戦前と戦後がおよそ半々。興味を引いたのは戦中の1点《教会のある風景》(1943)で、どういうわけかユトリロ風にパリの風景画を描いているのだ。43年といえば「すでにフランス美術界との連絡は切れた」とか、「右の腕はお国に捧げた気持で居る」とかいいながら嬉々として《アッツ島玉砕》などを描いていたころ。その一方で密かにパリの教会風景を描いていたのか。いったいどう解釈すればいいのか迷う1点である。
2013/10/26(土)(村田真)
武器をアートに──モザンビークにおける平和構築
会期:2013/07/11~2013/11/05
国立民族学博物館 企画展示場B[大阪府]
内戦の続いたモザンビークで、民間に残された武器を農具に交換し、それらの武器を使ってアートをつくるプロジェクト「TAE(銃を鍬に)」が進められている。同展は民博が集めた作品と、日本のNPO法人が所蔵する作品を合わせて展示するもの。作品は楽器を演奏する人や自転車に乗る人、犬、ワニ、鳥、椅子など通俗的な主題が多いが、細部を見るとAK47(カラシニコフの略称だが、AKB48もここから来たのか!?)をはじめとする武器の断片で成り立ってることがわかり、重厚感が増す。これらの作品を買って再び解体し、もういちど武器を組み立てようとするヤツがいるとしたら、そいつは悪党かアーティストのどちらかだ。
2013/10/26(土)(村田真)
藤田嗣治渡仏100周年記念「レオナール・フジタとパリ1913-1931」
会期:2013/10/25~2013/12/01
美術館「えき」KYOTO[京都府]
先日Bunkamuraで「レオナール・フジタ展」が開かれたばかりだが、これはまったく別企画。Bunkamuraではポーラ美術館のコレクションを中心に戦後作品が大半を占めていたのに対し、こちらは戦前のパリ時代に絞り、とくに「乳白色」で人気画家になる以前の初期作品が数多く見られた。藤田が芸術の中心地パリでいかに試行錯誤しながら自己のスタイルを確立し、スターの地位を獲得していくかがうかがえて興味深い。初期のころはアンリ・ルソー、エジプト壁画、モディリアーニなどに加え、やまと絵や浮世絵など日本の伝統美術の要素も採り入れ、「乳白色」に昇華させていった過程が見られる。日本人が欧米で成功するには、必ず日本の伝統的美学を盛り込んでおかなければならないことを知っていたのだ。出品作品のなかでもっとも目を引いたのは、《…風に》と題する26点の水彩画。1枚1枚「ルノワール風に」「マティス風に」「ユトリロ風に」と題されてるように、それぞれの画家の色彩とタッチで画風を描き分けているのだ。この器用さと確たる(核たる)中心のなさこそ藤田を、というより日本の画家を特徴づけるものではないか。やっぱり鵺だ。
2013/10/26(土)(村田真)
Do it yourself, Brain Massage──可塑的な身体と術
会期:2013/10/23~2013/10/30
東京藝術大学絵画棟アートスペース1・2[東京都]
台湾・日本芸術文化交流事業だそうで、日台それぞれ5人ずつが出品する彫刻展。遺跡で発掘された携帯電話やゲーム機と、発掘現場の写真やビデオを出品したのは涂維政。こういう「未来の遺跡」ネタは珍しくないけれど、壁の上を見上げると古典的なレリーフのレプリカが常設展示されていて、下の作品と呼応しているのは珍しい。偶然かもしれないが、これはポイントが高い。その隣には、虹色に輝くバルーンが部屋いっぱいに置かれ、なかに入れるようになっている。これは王徳瑜の作品で、なかに入ると球状ではなくドーナツ型であることがわかる。その隣の部屋は朱駿騰の作品で、コンセントから数百個のプラグが数珠つなぎになって炊飯器につながり、実際にメシが炊けてるというインスタレーション。いい香りがする。しかしどうも台湾の作品はどこかでだれかがやってたような既視感がある。その点、日本はこれまで見たことないようなヘンな作品が多い。その代表が宮原嵩広の《リキッド・ストーン》だ。これは正方形の大理石板の中央に穴が空き、そこから白いシリコン液が湧き出たり引っ込んだりする作品。前にも藝大で見たことはあるが、以前よりヴァージョンアップしたのか、穴からぷくぷく泡が出たり、ポコッと穴が開いたりする動作がいっそう卑猥で下劣に感じられた。これはエグい。
2013/10/25(金)(村田真)