artscapeレビュー

コレクション×フォーマートの画家 母袋俊也「世界の切り取り方」

2013年02月15日号

会期:2012/12/01~2013/01/27

青梅市立美術館[東京都]

今日は午後から立川に用があるのでその前に青梅まで足を伸ばしたが、そんなことでもなければここまで来なかったかもしれない。結論からいうと、来てよかったー! 最初はなんで青梅くんだりでやるのか、もっと都心でやってくれよんと思ったけど、来てみてわかった。これは青梅市立美術館でなければ成立しない、青梅市美ならではのサイトスペシフィックな絵画なのだ。美術館に入ると1階の奥に、木々の隙間から多摩川や遠くの丘陵を見渡すことのできるガラス窓のホールがあり、母袋はここに6台の《絵画のための垂直箱窓》を設置している。この「箱窓」は暗箱になっていて、穴をのぞくと縦長か横長のスリット(窓)を通してガラス窓の向こうの景色がながめられる仕掛け。いいかえれば、世界を強制的に枠づけてしまうという「フレーミング装置」なのだ。これとは別にガラス窓には青いテープが矩形に貼られ、「世界の切り取り方」が例示されている。余計なお世話ともいえるが、啓蒙的に絵画の原理を説いてくれる母袋らしい展示だ。しかしここまでならこれまでにも見てきたし、予想もついたことだが、2階の展示は予想を超えていた。ふつう個展といえばその人の作品だけを並べるものだが、母袋は「世界の切り取り方」というテーマに沿って、青梅市美のコレクションから選んだ作品も並べているのだ。たとえば「縦長」のコーナーでは平福百穂や山本丘人らの掛軸を、「横長」では小島善太郎や速水御舟らの風景画を並べ、ちゃっかり自分の作品もまぎれ込ませている。また、同じ画家の同じモチーフを描いた同一サイズの、しかし縦長と横長の2種を対比的に並べたりもしている。同館には2,000点を超すコレクションがあるらしいけど、よくこれだけテーマにふさわしい作品が見つかったもんだと感心する。美術館のロケーションやコレクションを計算に入れ、自分の作品の一部に採り込んでしまった希有な個展といえる。今年のベスト1だ(ってまだ始まったばかりだけど)。

2013/01/19(土)(村田真)

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