artscapeレビュー

トーマス・デマンド展

2012年07月15日号

会期:2012/05/19~2012/07/08

東京都現代美術館[東京都]

紙でつくったハリボテを撮ったたんなるトリッキーな写真、だと思っていた。実際、さまざまな屋内風景を厚紙で再現して撮ってるんだけど、見ていくうちに徐々に不穏な空気を感じずにいられなくなった。ごくありふれた浴室をスナップショットしたような《浴室》、コピー機が並んでいるだけの《コピーショップ》、壁が幾何学パターンの無響室を再現した《実験室》……。どれも人間が不在なのはいうまでもないとして、モチーフの選び方がつまらなすぎて尋常じゃないし、構図も無作為すぎて不気味なくらいだ。これはただ現実世界と紙でつくった虚構世界のギャップを見せたいわけじゃない、背後になにかもっと大きな企みが仕組まれているに違いない。それが確信に変わったのが《制御室》と題された1枚。モスグリーンの壁にメータやスイッチなどが無数に並び、上から天井板らしきものが垂れ下がっている。制作は2011年なので、これが福島第一原発の制御室内を想定したものであることは間違いないが、この本物の制御室がじつは脆弱なハリボテでしかなかったことを、また、そのときだれも人がいなかったという不在感を、これほど雄弁に、これほど不気味に表わした作品はないだろう。そうやってあらためて作品を見直してみると、どれもいわくありげな場所・状況を慎重に選んでいることがわかってくる。今回初めて見る映像作品にも驚いた。これはモチーフの選択だけでなく、そこに時間の要素を加えることで人間の知覚の曖昧さを突いているように見えた。いやあおもしろかったなあ、今年前半期の展覧会ベスト5には入りそう。

2012/06/05(火)(村田真)

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