artscapeレビュー

イタリアの展示デザインとリノベーション

2023年04月15日号

[イタリア]

日本の美術館で展示デザインに建築家が関わることは増えているが、現場にそれが明記されることは少なく、チラシやカタログなどを注意深く観察すると、名前を発見できる。しかし、イタリアのミラノではそうでなかった。スフォルツァ城内のロンダニーニのピエタ美術館は、ミケランジェロの未完ゆえに、現代アート風にも解釈しうる有名な彫刻を展示している。中央に彫刻が1点置かれているだけで、ほとんどの来場者はそれを鑑賞して帰るのだが、奥では過去の展示デザイン、また脇に小部屋が並び、これまでの台座の変遷を紹介していた。例えば、回転する台座の実物があったり、以前のイタリアの建築家グループBBPRによるデザイン、コンペで勝利したものの実現されなかったアルヴァロ・シザの案、そして現在の展示空間を手がけたミケーレ・デ・ルッキを説明している。すなわち、いかに展示したかも歴史化されており、その情報を開示しているのだ。またブレラ絵画館では、ベッリーニやマンテーニャなど、イタリアの近世美術を展示しつつ、近現代作品も混入したり、顔の描き方はヘンだが、背景の建築は精密に描くブラマンテの絵もあって楽しめるが、感心したのは、やはり建築家を重視していること。すなわち、見せる収蔵庫の一部や修復作業を公開する部屋をエットレ・ソットサスが担当していることが、キャプションに明記されていた。



ロンダニーニのピエタ美術館 ミケランジェロのピエタ像(背面)



左:BBPRデザインによる回転する台座 右:さらに古い台座



ソットサスによる見せる収蔵庫



ソットサスによる修復作業を公開する部屋


ちなみに、今回、ロンダーニのピエタ美術館以外にも、ミケーレ・デ・ルッキが美術館の空間デザインによく関わっていることを知った。まず20世紀初頭の銀行と4つのパラッツォを連結した巨大な美術館、ミラノのガッレリア・デイタリアは、企画展「メディチ家からロスチャイルド家まで──パトロン、コレクター、フィランソロフィスト」を開催し、主に銀行家コレクションの数々を紹介していたが、常設展のエリアにおいてカーテンを効果的に用いるなど、ルッキによるリノベーションの空間だった。またトリノの地下空間を活用したガッレリア・デイタリアも、ルッキのリノベーションである。こちらはJR展を開催しており、隣接する広場で難民の子どもたちの巨大写真を広げ、空から撮影した作品を紹介していた。大勢の人の協力で実現される水平のモニュメントは、シンプルだけど強い作品である。



ミラノのガッレリア・デイタリア ルッキによる空間



トリノのガッレリア・デイタリアのエントランス


From the Medici to the Rothschilds. Patrons, collectors, philanthropists

会期:2022年11月18日(水)~2023年3月26日(日)
会場:Gallerie d'Italia in Milan (Piazza della Scala, 6 20121 Milano)

JR. Déplacé∙e∙s

会期:2023年2月9日(木)~6月16日(金)
会場:Gallerie d'Italia in Turin (Piazza della Scala, 6 20121 Milano)

2023/03/12(日)(五十嵐太郎)

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