artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
北仲スクール都市デザイン系ワークショップ「横浜ハーバーシティ・スタディーズ」最終講評会
会期:2011/09/02
北仲スクール[神奈川県]
北仲スクールの「横浜ハーバーシティ・スタディーズ」の公開講評会にゲストクリティックとして参加した。今回は藤村龍至が課題を設定し、昨年試みた海市2.0の手法を改良し、実験的なワークショップ仕様としてバージョンアップしている。今回は架空の場所ではなく、山下埠頭という具体的な敷地が設定され、内容の評価がしやすくなった。ポイントは、あえて1/1,000のみとし、建築の細部に入らせず、都市を考えさせること。ひとりを除き、学生チームを毎日シャッフルする手法は、ワールドカフェのワークショップ版といえる。各段階のプロセスを模型として定着させる行為は、多数の主体がせめぎあう都市の径年変化を凝縮したかのようだ。
2011/09/02(金)(五十嵐太郎)
山本基 しろきもりへ─現世の杜・常世の杜─
会期:2011/07/30~2012/03/11
箱根彫刻の森美術館[神奈川県]
彫刻の森美術館の山本基「しろきもりへ」展を訪れる。彫刻家の井上武吉が設計した建築の各部屋において、枯山水風のランドスケープ、螺旋塔、床をおおう数ミリの高さの樹木的な文様(もっとも低い彫刻)と、異なる塩の粗さによる作品群が展開していた。偶然らしいが、来年の3.11までが会期であり、最終日に集めた塩を海に返すという。久しぶりに彫刻の森美術館を散策すると、1960年代生まれの建築家がいろいろなプロジェクトに参加している。一昨年に完成した手塚建築研究所による《ネットの森》、デッキや橋などによる動線計画のほか、クライン・ダイサム・アーキテクツによる目玉焼きのオブジェ(ベンチ)、みかんぐみのタルディッツによる企画展示の空間構成などである。
2011/09/01(木)(五十嵐太郎)
アートラボあいち
会期:2011/08/21
アートラボあいち(長者町)[愛知県]
あいちトリエンナーレから一周年のタイミングで、8月に長者町でオープンしたアートラボあいちを訪問した。1階はインフォーメーション機能、2階は愛知県立芸術大学の平面作品展「密度」、3階は名古屋芸術大学によるメディア系の展示が行われており(4階はリニューアル中、地下もイベント的に貸しだす)、地元の教育機関の充実ぶりがうかがえる。
2011/08/31(水)(五十嵐太郎)
ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展2011
会期:2011/06/04~2011/11/27
ジャルディーニ(Giardini di Castello)地区、アルセナーレ(Arsenale)地区ほか[イタリア]
2006年以来、毎年この街を訪れている。だが、津波や冠水の被害を目撃した3.11以降に海からヴェネツィアを眺めると、怖さの感覚を拭いさることができない。岩手で防波堤に囲まれた、海が見えない海辺の街を数多く見た後だと、津波は来ないかもしれないが、ときどき冠水は起きて、被害は受けているにもかかわらず、防波堤どころか、水辺に手すりすらないことに改めて気づかされる。むろん、こうした土木的な要素を付加すれば、観光都市の風情は台無しになるだろう。ヴェネチアが選択した覚悟は興味深い。
美術展の全体テーマは、「イルミ・ネイションズ」である。イタリア館の中央にティントレットの作品を三つ配し、そのまわりに光などをテーマにした多様な作品群が展開。アルセナーレの会場にも、目玉の絵画と呼応する作品が点在し、展示を引きしめる。また今回のパラ・パヴィリオンの試みも興味深い。会場内に入れ子で小展覧会が開催されているかのようだ。ところで、クリスチャン・マークレーの作品「時計」には驚かされた。あらゆる映画から時計のシーンを抜き出し、24時間を構成し、会場でリアルタイムに上映する。全映画史が一日に凝縮されると同時に、今の時間と接続しているのだ。どうやって厖大な映画を収集したのだろう。もうひとつ特徴的なのは、女性のアーティストが多いこと。一方、日本人はゼロなのが寂しい。建築のビエンナーレだと考えられない状況である。
ジャルディーニ会場における国別では、圧倒的なドイツ館(ただし、教会空間の手法を利用しているのは、ずるいような気もするが)、フランス館、イギリス館が力作だった。日本館における束芋の展示は、曲面映像があの使いにくい空間にあうか心配していたが、鏡を効果的に使いつつ、中心に下のピロティに抜ける井戸をつくり、成功していた。それにしても、3.11以前に構想された街と水の映像は、予想以上に津波を連想させる。たぶん外国人はなおさらだ。しかし、これで作品の意味に幅が広がったと思う。
会場外のパヴィリオンでは、音をテーマにしつつ、喧騒の街に安らぎの場を与えながら、池田亮司ばりのサウンドからリサイクル品の楽器まで、いろいろな音を紹介した台湾が良かった。街に散らばった展示はすべてを訪れるのが不可能なくらい多いだけに、いまいちの作品も少なくない。が、その過程で初見の古建築に出会う。全然知らなかったが、素晴らしい教会の空間に感銘を受けると、ダメな現代アートの100万倍素晴らしい。そりゃそうだ。当時のすぐれたアーティストが参加しているし、凡庸な現代建築よりも、歴史に耐えて残っている古建築のほうがはるかにすぐれている。ともあれ、あいちトリエンナーレで試みている街なか展開は、本家のビエンナーレで大量に実践されていることを確認した。
写真:上から、Monica Bonvicini(アルセナーレ)、Song Dong(アルセナーレ)、ドイツ館、フランス館、日本館
2011/08/23(火)~08/26(金)(五十嵐太郎)
石上純也 展 ほか
会期:2011/06/28~2011/10/16
バービカンセンター[イギリス(ロンドン)]
9.11の直前に滞在して以来だから、ロンドンは10年ぶりの訪問である。印象的なのは、都心にハイテク・スタイルによるガラスの高層ビルが増えたこと。バービカンセンターにおける石上純也展は、ヴェネチア・ビエンナーレ建築展2010、豊田市美術館の個展から続く、「空気のような建築」の新バージョンだが、バナナのように曲がった展示室の平面形状にあわせ、見えない柱がカーブしながら一列に並んでいく。またハイドパーク内にあるサーペンタイン・ギャラリーのピーター・ズントーのパヴィリオンは、中庭形式をとり、ピエト・アウドロフによる夢のような花園が展開していた。
2011/08/22(月)(五十嵐太郎)