artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
東日本大震災(舞浜・浦安)
舞浜、浦安[千葉県]
テレビでもよく報道される液状化の被害を確認すべく、舞浜から浦安を歩く。駅は真っ暗で、ディズニーランドは完全に沈黙していたが、イクスピアリはもう営業を再開していた。駅の反対側には、ショートケーキ住宅街があり、塀や道路がガタガタになっており、あちこちで工事中である。浦安に向かうと、平衡感覚を喪失するようなランドスケープ的な歩道が続く。地震で壊れたものは見かけなかったが、地盤の液状化で激しく傾き、使用不可になった交番など、小さな構築物の被害が認められた。目線より上はまったく日常の風景だが、足元、そして地下のインフラがズタズタになり、公園や公共施設、あるいはマンションに仮設トイレが多数設置されていたのも印象的である。地面には無数の亀裂が走り、段差が多数出現し、仙台の中心部よりダメージが大きいのではないかと思った。
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2011/04/06(水)(五十嵐太郎)
「20世紀日本建築・美術の名品はどこにある?」第19回アート・スタディーズ
会期:2011/04/04
INAX:GINZA 8階セミナールーム[東京都]
アート・スタディーズとは、彦坂尚嘉の声がけにより、2004年にスタートし、建築と美術の20世紀を振り返るべく、5年ごとに区切り、全20回が企画された連続シンポジウムである。本当に完結するのかと思われていたが、いよいよ第19回を迎え、ついに8年目に突入した。とりあげる時代は、1975年~1984年。美術は「前衛の終焉から保守への回帰」、建築は「都市住宅の時代」をテーマとし、編集者の植田実と安藤忠雄事務所出身の建築家、新堀学が住吉の長屋について語る。植田は、当時の建築家の住宅作品が理念的かつ自閉的になったことを指摘し、新堀はヴォイドのデザインの系譜から位置づけた。筆者は、住吉の長屋を見学した経験をもつが、想像以上に小さい空間であり、理念的な幾何学形態ながら、身体に親密なスケール感をもっていることに驚かされた。
2011/04/04(月)(五十嵐太郎)
南洋堂書店企画の建築トランプ第二弾「ARCHIBOX in JAPAN」(選者:倉方俊輔、イラスト:TOKUMA)
発行所:南洋堂
発行日:2011年3月
南洋堂の建築トランプ第二弾。第一弾は、筆者による建築のセレクションと『日経アーキテクチュア』の編集者、宮沢洋のイラストで作成したが、完売につき、第二弾の近代建築トランプ「アーキボックス・イン・ジャパン」が新しく大阪市立大に赴任した建築史の倉方俊輔による選定とTOKUMAの図柄で発売された。とりあげる建築は、大浦天主堂から東京スカイツリーの最新物件まで。今回のトランプでは、市役所、美術館、図書館、小学校、ビル、自邸など、13のビルディングタイプを数字に対応させ、4種の絵柄は、スペード=1924年以前/ハート=1925-49年/クラブ=1950-74年/ダイヤ=1975年以後という時代区分のマトリクスを使う。ジョーカーには、建築のユニークなディテールを用いる。全部を知っていれば、建築ツウを自慢できるだろう。ちなみに、こうした建築トランプは、すでに海外で90年代につくられており、モダニズム、ポストモダン、ディコンストラクティヴィズムなどを類型化していた。
2011/04/01(金)(五十嵐太郎)
東日本大震災
[東北]
交通事情がある程度、回復したタイミングで、数日をかけて、各地の被災地をまわった。青葉区をはじめとして、仙台近郊の名取、亘理、仙台港、多賀城、そして岩手から南下し、大船渡、陸前高田、松島、石巻、女川などである。東京でテレビを見ていると、大量の情報があふれているにもかかわらず、「被災地」と「被災者」は画一的に切り取られがちだが、現場を訪れると、想像以上に異なる状況が展開していた。20m越えの津波によって、ビルがゴロゴロ転がっていたり、三階建てのビルの屋上にアクロバティックにクルマがのった風景など、文字通りに想像を絶する町の破壊を目の当たりにして、311以降は、暴力的な表現の現代アートや生ぬるい作品を深い考えもなく発表することが、しばらく難しくなったと思う。
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2011/03/29(火)(五十嵐太郎)
生誕100年 岡本太郎 展
会期:2011/03/08~2011/05/08
東京国立近代美術館[東京都]
生誕100周年を記念し、岡本太郎の多面的な活動を振り返る展覧会である。個人的には、画家としてよりも(形式や手法の前衛性ではなく、不思議なキャラの絵であり、やはり色使いが特徴)、生き方、言説、民族学者的なまなざしの方が興味深い。今回は、二つの岡本太郎の展示施設をすでに見ていると、既知のものが多い入門的な内容なので、そういう観客も楽しめる、もうちょっと違う展示の仕かけも欲しい。もっとも、大阪万博における太陽の塔は、やはり岡本の履歴のなかでも傑出した作品だと、改めて思った。
2011/03/26(土)(五十嵐太郎)