2021年12月01日号
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artscapeレビュー

『アヒルの子』

2010年07月01日号

会期:2010/05/22

ポレポレ東中野[東京都]

2005年制作の小野さやか監督作品。みずからの家族をモチーフにしたドキュメンタリー映画で、カメラとともに親兄弟一人ひとりに向き合うことによって、表面的には模範的に見える「家族」を内側から突き崩していく。なるほど、ヒリヒリとするような内面を剥き出しにしながら、個人的な物語を語る「私映画」ではある。けれども、この映画が特異なのは、観客にとって未知の「家族」の内実が曝け出されているからではない。それは、「家族」の構成員にとっても(おそらくは)見知らぬ秘密さえも暴き出している。妹である小野監督を中心に、両親や2人の兄、姉と一対一の関係性に沿って明らかにされる事実や思いは、それぞれ固有のものであり、「家族」として共有されているわけではないだろう。小野が文字どおり涙と嗚咽とともに浮き彫りにしたのは、「家族」というもっとも身近で、だからこそ厄介な近代的な社会集団が、決して一枚岩のものでも安定したものでも何でもなく、それぞれ固有の関係性を維持したり隠すことによって辛うじて成立する、脆くも儚い人工的な作り物であるということだ。その意味で、「家族」に復讐するという小野の企ては、「家族」にとらわれていた自分自身との対決でもあった。

2010/05/22(土)(福住廉)

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