artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

そこに立つ、存在する 楢木野淑子 展

会期:2013/11/11~2013/11/30

ギャラリーwks.[大阪府]

近年の若手陶芸家、特に女性の傾向のひとつに、過剰で細密な装飾性が挙げられる。楢木野もその一端に属する作家である。装飾といってもさまざまだが、彼女の場合はアクセサリーなどでつくった型からパーツをつくり、それらを作品表面に張り込むタイプだ。また半透明の釉薬によるカラフルな彩色も特徴である。この手の作家は、縮み志向に陥る危険があるが、楢木野は今回、その逆を行った。巨大な柱状立体4点を出品したのである。作品表面は太陽や動植物の装飾に溢れ、空間全体が気のようなもので満たされている。彼女が目指したのは、例えば神社の鳥居のように、そこに存在するだけで空間を変容させる作品だ。さらに数を増やして広い空間で展示すれば、一層素晴らしくなるだろう。大作に転じた今回の判断は正しいと思う。

2013/11/11(月)(小吹隆文)

大島成己 新作展 緑の触覚─haptic green

会期:2013/11/02~2013/11/30

ギャラリーノマル[大阪府]

《haptic green》は、大島が2年前から取り組んでいる写真作品のシリーズで、非日常的な視覚体験をテーマにしている。森の風景を端から順に撮影し、数百枚の写真を合成したものだ。前回の個展では、焦点をひとつのレイヤーに集中させることで、特異な視覚体験を誘発させた。そして今回の新作は、画面内に幾つもの焦点を点在させたものだ。観客は、ありきたりな森の写真を前にして、眼と脳の反応が異なることに戸惑うだろう。そして作品を見続けるうち、自分が未知の視覚体験に誘われた事実に気付かされるのだ。本作にはもうひとつ興味深い特性がある。片目で見ると画面が3Dになるのだ。何とも不思議な作品である。

2013/11/07(木)(小吹隆文)

注目作家紹介プログラム チャンネル4 薄白色の余韻 小林且典 展

会期:2013/11/02~2013/12/01

兵庫県立美術館 ギャラリー棟1階 アトリエ1[兵庫県]

蝋型鋳造による瓶や壺などの小彫刻と、それらを配置した静謐な写真作品で知られる小林且典。筆者が彼の作品と出合ったのは約7年前のこと。その後何度か個展に出かけたが、近年は不運にも機会を逸していた。それだけに、本展には大きな期待を抱いていたのだ。出品作品は、ブロンズ、木彫、写真、インスタレーションだった。特徴は、ブロンズより木彫が多いことと、水干顔料で白以外の彩色を施した作品があったことだ。これは、小林が2010年にフィンランドで滞在制作をした経験から生まれたものであろう。また、床に展示された木彫のインスタレーション、部屋の隅の水回り(会場は制作アトリエなので、ホワイトキューブではない)を利用したブロンズと木彫のインスタレーションも斬新だった。幸運にもレクチャーで本人と再会でき、イタリア留学時代の貴重な写真や、自作のレンズを見せてもらったのも収穫だった。

2013/11/02(土)(小吹隆文)

昭和モダン 絵画と文学 1926~1936

会期:2013/11/02~2013/12/29

兵庫県立美術館[兵庫県]

昭和最初の10年間に起こった文化のうち、絵画と文学に着目したのが本展だ。会場構成は、「プロレタリアの芸術」「新感覚・モダニズム」「文芸復興と日本的なもの」の3章からなり、第1章が圧倒的に面白い。絵画の岡本唐貴、柳瀬正夢ら、文学の小林多喜二、徳永直らの作品を通して、当時のプロレタリア運動の高揚がリアルに伝わるからだ。この熱狂ぶりを見ると、国家権力が非情な弾圧を加えた理由が理解できる。第2章では、絵画は古賀春江や川口軌外ら、文学は横光利一や川端康成らが見られる。彼らのアヴァンギャルドで洗練された表現は新興の美に溢れているが、熱量が第1章に及ばない。梅原龍三郎や安井曾太郎らが“日本的油絵”を模索した第3章に至っては、もはや老成というか、戦雲を前に安全地帯に退避したかのようだった。それにしても、わずか10年間にこれだけ凝縮した文化があったとは驚きだ。今後は昭和戦前期の見方を変えなければなるまい。

2013/11/02(土)(小吹隆文)

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あなたの肖像─工藤哲巳 回顧展

会期:2013/11/02~2014/01/19

国立国際美術館[大阪府]

1994年以来、約20年ぶりとなる工藤哲巳の大回顧展。前回も大規模だったが、今回は総点数約200点と一層のスケールアップを果たしている。その主因は、前回はフォローし切れなかった1950年代・60年代の作品が数多く出品されたことだ。また、20年の歳月が工藤の再評価を進め、国内外の美術館で彼のコレクションが形成されるようになったのも大きい。帰国作品のなかには、《インポ分布図とその飽和点における保護ドームの発生》(ウォーカー・アート・センター蔵)のように、半世紀ぶりに国内公開されたものもあった。このように充実した内容のおかげで、本展では、反芸術から滞欧時代を経て1980年代以降に至る彼の業績をほぼ概観できる。同時に、工藤流ニヒリズムとでも言うべき思想の変遷を窺えるのも見どころだ。他には、大著となった図録の充実ぶりも特筆しておきたい。

2013/11/01(金)(小吹隆文)

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