artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
秋山陽 展
会期:2013/12/03~2014/01/25
ARTCOURT Gallery[大阪府]
陶による立体造形で知られる秋山陽の大規模個展。3つのシリーズ作品が出品された。《放卵のかたち》は、初期の黒陶技法による造形(現存しない)を自身の根幹として、改めて制作したもの。10点あり、幾何学的形態と有機的形態が絶妙のバランスで融合している。2003年から発表している《Metavoid》は、物質性を前面に出した存在感たっぷりの大作で、作品が内包するvoid(中空)と作品と空間認識の関係で生じるvoidの両方を意識させることを主眼としている。5点が出品された。そしてもうひとつはモノタイプ版画《交信》44点で、自宅周辺で採集したクモの巣を版にした異色の作品だった。これら3つのシリーズを通して、1970年代から現在に至る秋山の造形思考が見て取れたのが本展の収穫である。広大な展示スペースを持つ画廊ならではの、優れた企画展だった。
2013/12/05(木)(小吹隆文)
佐竹龍蔵 展「紙と絵具と絵画」
会期:2013/11/22~2013/12/04
gallery near[京都府]
佐竹龍蔵が描くのは、真っ直ぐにこちらを見つめる無垢な少年少女たちだ。その表情は複雑で、微笑んでいるのか、不安気なのか、何かを訴えたいのか、解釈は見る人ごとに異なるだろう。逆に言うと、複数の解釈を許す許容量の広さこそが作品の魅力である。また、彼の画法は点描の一種であり、平筆で薄い単色を置く行為を延々と繰り返して描かれる。そこには線も面もなく、あるのは色彩(=光)の集積のみである。本展では、作品展示だけでなく、佐竹自身が会場に詰めて公開制作も行なわれた。水のように薄い絵具が紙の上に置かれ、徐々に染み込んでいく。その様子は、まるで光が水と絵具に化身して紙に同化するかのようであった。
2013/11/30(土)(小吹隆文)
高田冬彦「MY FANTASIA」
会期:2013/11/30~2013/12/28
児玉画廊[京都府]
高田冬彦は首都圏で活躍する作家だが、関西では本展が初お目見えだった。そして特大のインパクトを関西の美術ファンに残した。彼の作品は、彼自身が何者かに変装してパフォーマンスを行ない、その模様を映像や写真で記録したものだ。本展では、臀部に食虫植物を生やしてベートーヴェンの田園交響曲を指揮しながらパカパカと股を開く《VENUS ANALTRIP》や、女学生姿&恍惚の表情でワルツを舞いながら盛大なスカートめくりを繰り広げる《MANY CLASSIC MOMENTS》、日本列島の形をした男根を生やしたヤマトタケルが室内で暴れまわる《JAPAN ERECTION》、そして、歴史的に著名な女性たちの首をトーテムポール状に積み上げる様子を記録した《WE ARE THE WOMEN》(新作)が出品された。これらの作品は、表面的にはナルシシストの変態による悪ふざけにしか見えないであろう。しかし実際のところは、人間の深奥に潜む業を引きずり出す行為であり、道徳や倫理、善悪では判断しえない境地を垣間見せることである。それはまるで、真にクリエイティブなものを生み出すためには、常に自らをギリギリの地点にさらさねばならないと訴えかけているかのようであった。
2013/11/30(土)(小吹隆文)
森川あいみ個展 ラジオ体操第一
会期:2013/11/26~2013/12/01
KUNST ARZT[京都府]
画廊の展示室には、湾曲したベニヤ板に描かれた絵画が縦横無尽に配置されていた。それらはどれも、ある視点から眺めた風景であり、動きを伴っている。どうやら展覧会タイトルに謎を解くカギがあるようだ。つまり本作は、ラジオ体操をする人間の動きと視線の経過をトレースして描かれた、絵画によるインスタレーションなのである。絵のなかに動きや時間を封じ込める表現方法は、たとえばイタリア未来派や日本の絵巻物の異時同図法のように、すでに多くの実例がある。しかし、彼女の手法はそれらとは根本的に異なる。画面を曲げ、3次元的な展示を行なうことにより、よりダイナミックな描写に成功しているのだ。可能性に満ちた独自のスタイルであり、今後の展開に期待している。
2013/11/28(木)(小吹隆文)
堀尾貞治 展
会期:2013/11/19~2013/12/01
LADS GALLERY[大阪府]
芸術家のなかには制作と人生がシンクロして「全身芸術家」と称される者がいるが、堀尾貞治もそのひとりかもしれない。日々黙々と制作し、1年間に100回前後も展覧会を行なう。そんな彼の仕事は、もはや単体で批評すべきものではなく、生き様自体が一個の大きな作品と言えるのではないか。そんなわけで、今回もいつもの調子と思って出かけたのだ。ところがどっこい、彼にはまだまだ未知の引き出しが隠されていた。本展では数種類の作品が出品されていたが、最も驚かされたのは壁画状の大作である(画像)。これらは、折り畳んだ紙を黒く塗り、開いたら黒と白の模様ができていたという単純な代物だ。それが堀尾の手にかかると、かくも美しい絵画作品になるのである。なんたるセンス。やはり彼は「全身芸術家」である。
2013/11/23(土)(小吹隆文)