artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
海野厚敬 展「the right」/「the left」
会期:2013/10/01~2013/10/06
「the right」:ギャラリー恵風、「the left」:ギャラリーヒルゲート[京都府]
具体的な情景を描くのではなく、かといって抽象画でもない。図柄やモチーフの質感をコントロールすることで、兆しや気配といった感覚的な領域を描き出すのが海野の特徴だ。近年の彼は創作意欲が爆発的に加速しており、本展でも2つの画廊の3フロアを使用して何とか作品を収容した。これでもまだ空間的に十分とは言えないが、画業の充実ぶりは観客にも十分伝わったはずだ。おそらく彼は、画家として最初のピークを迎えている。このタイミングで美術館クラスの空間を与えてやれば、更なる伸びが期待できるだろう。近々にその機会が訪れることを期待している。なお、一見意味深な展覧会タイトルには、実はさほど深い意味はないらしい。ならば単純に「海野厚敬展」としておくべきではなかったか。
2013/10/01(火)(小吹隆文)
起源を歩く|Jomonと原田要の庭
会期:2013/09/30~2013/11/01
京都造形芸術大学芸術館[京都府]
花や食虫植物を思わせる立体の支持体(寄木を彫刻したもの)を制作し、その表面にペインティングを施した原田要の作品。絵画と彫刻の要素を兼ね備えたそれらが、縄文土器との共演を果たした。この組み合わせは一見奇異に思えるが、本展の企画者は、イメージと形態の一体感や表面(=物事が生起する場)へのこだわりに、両者の共通性を見出したようだ。その主張には議論の余地があるかもしれないが、古代の遺物と現代美術が等価に並ぶ様は非常にエキサイティングかつ美しかった。時空を超えた美術表現の邂逅は大歓迎だ。今後も同様の企画を継続してほしい。
2013/10/01(火)(小吹隆文)
水田寛 展「レトロポリス」
会期:2013/09/21~2013/09/29
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
童画を思わせる画風、複数の時空が複雑に交錯した空間表現、鮮やかな色彩の乱舞といった要素からなる絵画作品30点を、展示室を目いっぱい使ってインスタレーション的に展示していた。こうした最近の水田の作風には、美術教育の影響を受ける前の自分を振り返ろうとする意図が窺える。一度キャンバスに描いた作品を切り取り、別の絵とつなぎ合わせる手法もまた、完成度や構図を気にせず描いていた子ども時代から着想したものだ。描くことへの根源的な欲求に基づきつつ、作品の配置には緻密な計算を凝らしているのも彼らしい。現在の水田の実力を惜しみなく出し切った、気持ちのいい個展だった。
2013/09/24(火)(小吹隆文)
プレビュー:中島麦「星々の悲しみ blue on blue」
会期:2013/10/04~2013/10/27
Gallery OUT of PLACE[奈良県]
風景を起点に、単純化した構図と鮮やかな色面による半抽象的絵画を発表してきた中島麦。彼はいま、新たなシリーズに挑戦している。それは、マーブル模様のように色彩がせめぎ合う作品と、画面全体をむらなく単一色で塗り込めた作品を併置したものであり、一種のインスタレーションとしても機能する。彼が目指すのは、両極端な世界を対峙させることで得られるミクロとマクロを往還するような感覚であろうか。筆者はまだ一度しかそのシリーズを見たことがないので、彼の新シリーズをたっぷり見られる今度の個展に大きな期待を寄せている。
2013/09/20(金)(小吹隆文)
プレビュー:日本の男服─メンズ・ファッションの源泉─
会期:2013/10/11~2014/01/07
神戸ファッション美術館[兵庫県]
ファッションの展では、どうしても女性が主役になりがちだ。しかし、それが男女共通の文化である以上、メンズ・ファッションにも語るべき歴史と文化がある。本展は、明治から戦後に至る日本の男服に真正面から挑んだ注目すべき展覧会だ。明治5(1872)年の太政官布告で制定された文官大礼服に始まり、制服、軍服、学生服、背広を通して一般化した日本人男性の洋装。戦後になるとアイビー・スタイルの「VAN」やヨーロピアン・モードを取り入れた「エドワーズ」が登場し、若者文化としての男性ファッションが花開く。その過程を実物で知ることができるのだから本展は貴重だ。普段は明るくて華やかな会場が黒々としてしまうかもしれないが、この稀有な機会を見逃したくない。
2013/09/20(金)(小吹隆文)