artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

奥田輝芳 55 DRAWINGS

会期:2013/03/12~2013/03/17

ギャラリー恵風[京都府]

展覧会初日に55歳の誕生日を迎えた奥田が、語呂合わせなのか、2008年以降のドローイングから55点を選んで個展を行なった。ドローイングといっても画風はタブローと大差がなく、支持体がキャンバスか紙かの違い程度である。ただし、これらの作品はもともと発表を想定しておらず、その分トライアルの痕跡が生々しく残っている。ドットが浮かぶ作品、水平線が何本も並ぶ作品、少ない線で構造物のような形を描いた作品などがあり、時々の関心の変遷と、完成に至る道のりがつぶさにうかがい知れた。絵画作品は最後の表面しか見えないので、制作過程を読み取るのが難しい。時々このようなドローイング展を行なってくれると、観客としては大変助かる。

2013/03/12(火)(小吹隆文)

平久弥 展 Exit─New York─

会期:2013/02/22~2013/03/16

Yoshiaki Inoue Gallery[大阪府]

フォト・リアリズムの手法を用い、徹底した写実描写で知られる画家・平久弥の個展。会場は2フロアあり、下の階ではニューヨークの地下鉄やホテルの室内を描いた新作が展示されていた。どの作品にも「EXIT」の表示があり、出入口もしくは非常口付近が描かれているようだ。また上の階では、東京やシンガポールのエスカレーターなどを描いた近作が展示されていた。フォト・リアリズムの画家のなかには、人間の視覚やカメラ・アイとは異なるパースペクティブを忍ばせて絵画の独自性を主張する者もいるが、平はひたすら写真に忠実に描画している。そこには究極の没個性というか、己さえも消し去った空虚な空間を描き切ろうとする欲望が感じられる。ただし、画中に登場する光のバリエーションは多彩で、場の選定には入念なリサーチが行なわれているようだ。

2013/03/06(水)(小吹隆文)

井桁裕子 展─陶の人物像─

会期:2013/03/01~2013/03/16

乙画廊[大阪府]

井桁裕子は主に東京で活動している人形作家だが、今回は陶芸作品をメインに個展を開催した。恥ずかしながら筆者は彼女の存在を知らなかったのだが、作品の独自性と技術の高さには目を見張るものがあった。作品の多くは少女もしくは両性具有的な人物が貝殻や岩のような塊と一体化した姿をしている。自分の殻に閉じこもった精神が外界に顔をのぞかせた一瞬を切り取ったかのようだ。顔や手の細密さ、たおやかさと、塊部分のごつごつした表現の対比が印象的で、流れ落ちる釉薬の表情も効果を上げている。きっと関西のアートファンにも支持されるであろう。そのためにも、今後も関西での発表を継続してほしい。

2013/03/04(月)(小吹隆文)

河口龍夫 聴竹居で記憶のかけらをつなぐ

会期:2013/03/02~2013/03/03

聴竹居[京都府]

建築家の藤井厚二が京都・大山崎に建てた自宅兼実験住宅で、エコ建築の先駆として評価されている聴竹居。ここでは過去に何度かコンサート、見学会、展覧会などが催されているが、3月初旬に行なわれた「河口龍夫 展」もそのひとつである。河口は聴竹居を訪れた際に「空気と時間の静寂が美しいほこりのように積もっている」と感じたそうだ。結果、彼が採用したのは、種子、貝殻、匂いなどをモチーフとした小品を、邸内にさりげなく配置する展示プラン。自身の表現を声高に主張するのではなく、周囲の環境に寄り添わせる慎み深いやり方だった。だからといって、感動までもが控えめだったわけではない。視覚、嗅覚、触覚(一部の作品は触れることができた)、聴覚(周囲の音)、味覚(茶話会の参加者に限る)の五感をフル活用する芸術体験は贅沢の一言。この場でしか味わえない感動が確かにあった。

2013/02/24(日)(小吹隆文)

津上みゆき展 View─まなざしの軌跡、生まれくる風景─

会期:2013/02/02~2013/02/24

一宮市三岸節子記念美術館[愛知県]

風景を描いた日々のスケッチをもとに、時間、季節、記憶、感興など、さまざまな要素を織り交ぜたみずみずしい絵画作品を描き出す津上みゆき。彼女にとって初の美術館での個展となる本展では、2005年に大原美術館のレジデンス「ARKOプロジェクト」で制作した4点組の大作、東日本大震災の当日に偶然描いていた桜の木のスケッチから発展した6点組の作品、自身にとって特別な日に思いを馳せた13点組の作品などを中心に、それらのためのスケッチや水彩画、版画を加えた約60作品が展示された。連作中心とすることで、彼女の創作スタイルや発想の広がりがわかりやすく提示され、画家が1枚の絵のなかにどれだけの思いや要素を込めているのかも、観客にしっかり伝わったのではないか。見終わった後にさわやかな余韻が残る、優れた個展だった。

2013/02/24(日)(小吹隆文)

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