artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

溶ける魚 つづきの現実

京都精華大学ギャラリーフロール、Gallery PARC[京都府]

会期:2013/01/10~2013/01/26(Gallery PARCは01/20まで)
アンドレ・ブルトンが1920年代に発表した小説『溶ける魚』をタイトルに冠した本展。しかし、10人+1組の出品作家にシュルレアリストはいない。シュルレアリスムが誕生した時代背景──第一次大戦や経済恐慌で疲弊した20世紀初頭のヨーロッパ──と、東日本大震災、原発事故、長引く経済不況、不毛な政治などの状況を抱える現代の日本に奇妙な一致を感じた作家たちが、今自分たちがなすべきことを真摯に考え、『溶ける魚』以後(=つづきの現実)を提示する場として、自らの仕事を世に問うのだ。いささかものものしい説明になってしまったが、本展は近年京都で活発化しつつある若手美術家たちの自主企画のひとつとして注目に値する。衣川泰典、高木智広、荒木由香里、花岡伸宏、林勇気など、作家のラインアップにも期待が持てる。

2012/12/20(木)(小吹隆文)

胎内巡りと画賊たち~新春 真っ暗闇の大物産展~

会期:2013/01/10~2013/01/20

京都伝統工芸館内 京都美術工芸大学付属京都工芸美術館[京都府]

東京を拠点に活動する画家集団・画賊が、関西の天野萌、木内貴志、木村了子、建築ユニットmono.をゲストに迎え、京都で展覧会を開催。こけしや貝殻の置物といった伝統的な民芸品をモチーフに「新しい物産」を発表すると同時に、「胎内巡り」(真っ暗な迷路空間を通って明るい地上に戻る体験を通して、仏教の教えに導かれる過程を疑似体験する行為)が体験できる。観光都市京都の一角で繰り広げられる、怪しげなムード満載の脳内リゾートはいかが。

2012/12/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:橋本大和 写真展 4 1/2

会期:2013/01/08~2013/01/20

NADAR/OSAKA[大阪府]

大阪のとある路地裏にある、築100年の木造四畳半長屋での日々を捉えた写真展。そこの住人たちは、お金はないが連日朝まで騒ぎ、疲れたら眠る。また、さまざまな人が出入りしては消えていく。彼らの生き方は享楽的・刹那的かもしれないが、目いっぱい「いまを生きる人間」たちでもあるのだ。本展では、彼らへの共感に満ちた作品約30点を展覧。ちなみにタイトルの4 1/2は四畳半のことであり、フェリーニの名作映画「8 1/2」へのオマージュでもある。

2012/12/20(木)(小吹隆文)

金光男 展 row─thickness:KIM Mitsuo works

会期:2012/12/14~2012/12/27

Gallery PARC[京都府]

金光男は、白く不透明なパラフィンワックス(=蝋)にシルクスクリーンでイメージを刷り、そこに熱を加えることでイメージの一部が変容した平面作品を発表している。本展では従来どおりの作品に加え、ニュータイプの作品も発表。会場の床に溶かした蝋を直接流し込んでつくった支持体に、現場でシルクスクリーン印刷を施し、その一部が電球の熱で溶けていく過程が見える作品や、ガラス窓に同様の処理を施した作品など、これまでにないサイトスペシフィックな表現を展開した。学生時代から完成度の高い作品を発表してきた金だが、本展でのトライアルによって表現の幅を大きく広げることに成功した。

2012/12/14(土)(小吹隆文)

前谷康太郎「distance」

会期:2012/11/17~2012/12/24

梅香堂[大阪府]

暗闇の中にオレンジ色の光がぼんやりと灯り、徐々に大きくなったかと思うと再び縮小に転じ、やがて消失する。その繰り返しのなかで観客の瞼には残像が焼き付き、同一映像の繰り返しとは思えない豊かな視覚体験へと誘われる。ロスコの絵画を思わせる前谷の作品は、実は単純な方法でつくられているらしい。ただ、自作のピンホールカメラ風の道具を使用することで、映像に不思議な神秘性が宿るのだ。本展ではこの作品以外に、12個のブラウン管テレビを用いた作品なども出品。ブラウン管の個体差を生かすことで、ひとつの映像から豊かバリエーションを生み出すことに成功していた。彼の作品を見ていると、われわれの視覚にはまだまだ未知の領域が残っていることが実感できる。彼の作品をもっとたくさん見てみたい。

2012/12/13(木)(小吹隆文)