artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

山口晃 襖絵奉納記念「重要文化財養林庵書院」特別公開

会期:2012/11/03~2012/12/02

平等院養林庵書院[京都府]

山口晃が京都・宇治の平等院養林庵書院(重要文化財)に14面の襖絵を奉納し、特別公開が行なわれている。養林庵書院は桃山城の遺構とも伝えられる建物で、狩野派の障壁画があるが平常は非公開である。彼の襖絵は、書院に通じる六畳+板間の部屋に設置されている。絵の内容は、楼閣風の蒸気機関車に乗った人々(死者の魂)が入京し、京都駅から極楽浄土へ向かって旅立とうとする群像&情景図だ。来迎図と洛中洛外図の形式を借りており、過去と現代と未来が融合した山口らしい作品である。また、隣室に通じる4面の襖は「南無阿弥陀仏」の六文字を書き連ねて藤棚に見立てたもので(平等院は藤の名所でもある)、襖をわずかに開くと一条の光(太陽光)が室内に差し込む。これは仏教の教えにある二河白道の見立てである。山口は今後、隣室にも12面の襖絵を奉納する予定。数年後の完成が今から楽しみだ。

2012/11/03(土)(小吹隆文)

開館記念展 I 横尾忠則 展「反反復復反復」

会期:2012/11/03~2013/02/17

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

横尾忠則が兵庫県に寄贈・寄託した約3,000点の作品と膨大な資料を中核に、11月3日に開館した横尾忠則現代美術館。場所は神戸市灘区の原田の森ギャラリー(旧兵庫県立近代美術館)西館で、村野藤吾が設計したモダン建築の名作を一部改修して復活させたものだ。開館前日の開館式&パーティーには溢れんばかりの招待客が訪れ、同館並びに横尾への期待の高さが感じられた。こけら落しの本展は、横尾作品にしばしば見られる同一モチーフの反復をテーマにしたもの。1960年代と2000年以降の作品を組み合わせるなど、異なる年代の作品を並置することにより、彼の芸術の基盤と変遷を明らかにした。今後同館は、もっぱら横尾作品を展示する場になると思われる。しかし、せっかく兵庫県に現代美術館ができたのだ。近い将来には他の作家の個展やグループ展も開催し、文字通り兵庫県の現代美術の要となってほしい。

2012/11/02(金)(小吹隆文)

深い闇の奥底 フランソワ・ビュルラン展

会期:2012/10/26~2012/11/18

ギャルリー宮脇[京都府]

薄茶色の包装紙をつなぎ合わせた画面には、創造主を思わせる牙とあごひげの人物(時には数名)と、魚、鳥、獣、有翼の天使(?)などが描かれ、同心円が余白を埋めている。また、牙とあごひげの人物から吐き出された白い線が、まるでエクトプラズムのように画面上を漂っていた。一見して思い出されるのは、ラスコーやアルタミラなど先史時代の洞窟壁画だ。無限の闇に引きずり込まれるような恐怖感と生命への賛美がないまぜになった、一言では言い表わしにくい感情が身を包んでいく。呪術的な魅力を備えた作品であることは間違いない。私はこの作家を本展で初めて知った。海外作家なので滅多に見ることはできなさそうだが、今後も機会があれば必ずチェックしておきたい。

2012/10/30(火)(小吹隆文)

キュレーターからのメッセージ2012 現代絵画のいま

会期:2012/10/27~2012/12/24

兵庫県立美術館[兵庫県]

現代における絵画の諸相を、14作家の仕事で紹介している。作品傾向はバラエティに富み、いわゆるタブロー(居城純子、渡辺聡、彦坂敏昭、丸山直文、横内賢太郎、奈良美智、法貴信也)から、超大作(平町公)、壁画(野村和弘)、映像を駆使したもの(大﨑のぶゆき、石田尚志)、その他(和田真由子、三宅砂織、二艘木洋行)と、実にさまざまだった。また、いわゆるタブローとグルーピングした作家も、その作風には多様性が見られた。質の高い作品が揃ったので見応えがあり、現代の多様な状況が窺える展覧会だったのは確かだ。ただ、同種の企画展にありがちなことだが、総花的な紹介に終始し、明瞭に「現代絵画とは〇〇だ」というような見解が示されることはなかった。それが非常に困難なことは理解しているが、今、あえてそこに踏み込む勇気を見せてほしいとも思った。

2012/10/26(金)(小吹隆文)

プレビュー:「阪急うめだギャラリー」こけら落とし展覧会 名和晃平 個展 Kohei Nawa-TRANS│SANDWICH

会期:2012/11/21~2012/12/10

阪急うめだギャラリー[大阪府]

大阪の阪急百貨店うめだ本店のグランドオープン(11/21)は、関西の人々にとって大注目のトピックだ。美術関係者の間では、工事期間中に同店スタッフが画廊や美術家に盛んにアプローチしていたことも記憶に新しい。そうした活動の成果というべきか、同店ギャラリーではリニューアルオープンの第1弾として名和晃平の展覧会を開催する。関西の百貨店のなかでも高いブランド力を持つ阪急が現代美術を積極的に扱えば、地元の美術シーンにも大きな影響を与えるだろう。同店の意気込みが本物か、本展と今後の展開に注目したい。

2012/10/20(土)(小吹隆文)