artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

近代洋画の開拓者 高橋由一 展

会期:2012/09/07~2012/10/21

京都国立近代美術館[京都府]

高橋由一の作品のなかで、私が一番好きなのは豆腐の絵だ。最初は実物ではなく雑誌の画像で知ったのだが、その際の驚きはいまでも鮮明に覚えている。「なんだこの変てこりんな絵は」「油絵で豆腐を書いてどうするんだ」。正直に告白すると、当時の私は彼の作品をキワモノ扱いしていたのだ。その後何年かが経ち、香川県の金刀比羅宮で実物の《豆腐》を見ることができた。由一独特のごつごつした質感表現で描かれた豆腐には並々ならぬ存在感があり、彼が目指していたリアルと現代のわれわれのリアルには触覚と視覚ほどの違いがあることにやっと気付いた次第だ。本展では、《鮭》や《花魁》などの代表作はもちろん、道路改修を記念した画帖や油絵以前に幕府の開成所で描いていた動植物の図譜が見られたことが収穫だった。また、記者発表時に学芸員が話した「由一は侍だったので、絵で藩や国に仕えようとしたのではないか」との指摘も作品理解に役立った。本展により、私のなかの高橋由一像が、ほんの少しだが明瞭になったように思う。

2012/09/06(木)(小吹隆文)

バーン=ジョーンズ展─英国19世紀末に咲いた華─

会期:2012/09/01~2012/10/14

兵庫県立美術館[兵庫県]

私は10代後半に、いわゆる世紀末芸術にずっぽりとはまった。最初はクリムトだったが、すぐに、シーレ、ムンク、ルドン、モロー、クノップフ、ビアズリーと、なんでもござれになった。いま思えばその理由は性的関心や恍惚感に由来するのだが、たとえ動機がよこしまでも自分の美的嗜好のルーツに世紀末芸術があるのは間違いない。バーン=ジョーンズも当時興味があった作家のひとりで、彼の作品が生で見られるならと、いそいそと美術館へ向かった。しかし、いざ作品に接すると、事前の期待とは裏腹な反応がわが身に起こった。作品に充満する濃密な美意識に負けて、胸やけにも似た気分に襲われてしまったのだ。年をとると食事の好みが変わるという話はよく聞くが、美術も同じなのかもしれない。美術展でこんな体験をしたのは初めてだ。

2012/09/02(日)(小吹隆文)

FLESH LOVE PHOTOGRAPHER HAL写真展

会期:2012/08/04~2012/09/02

GALLERY TANTOTEMPO[兵庫県]

PHOTOGRAPHER HALは、“愛する人とひとつになりたい”という衝動をテーマに、さまざまなシチュエーションでカップルの写真を撮り続けている。そして本作ではカップルを真空パックにして撮影するという、なんとも風変わりな作品を発表した。まるでスーパーマーケットで売られる肉や野菜のようにパックされたカップルの姿は衝撃的。これこそ愛し合う二人の究極の姿とも言えるし、現代社会では愛さえも即物的なのかと絶望的な気分を味わうこともできる。なお、会場には制作風景を記録した映像も展示されており、本作の撮影には思いのほか危険が伴うこともわかった。

2012/08/25(土)(小吹隆文)

プレビュー:BIWAKOビエンナーレ2012 御伽草子~Fairy Tale~

会期:2012/09/15~2012/11/04

近江八幡市旧市街地、東近江市五個荘[滋賀県]

安土桃山時代以来の歴史を有し、江戸時代の面影を今に残す町並みで知られる近江八幡市の旧市街地。同地の空き家や古い建物などを会場にして行なわれてきた現代アート・イベントが「BIWAKOビエンナーレ」だ。5回目の今回は、隣接する東近江市の五個荘も会場に加え、過去最大のスケールで開催される。内容の充実ぶりに対して、低予算や宣伝下手、地元民や自治体との関係性の浅さというジレンマを抱えていた同ビエンナーレだが、ここに来て規模拡大ということは、それらの突破口をみつけたということだろうか。観客にとっては2会場の移動という新たなハードルが加わるわけで、従来以上に細やかな運営や対応が求められる。その意味で、今回がBIWAKOビエンナーレの正念場なのかもしれない。

2012/08/25(土)(小吹隆文)

プレビュー:六甲ミーツ・アート 芸術散歩2012

会期:2012/09/15~2012/11/25

六甲山カンツリーハウス、六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲山ホテル、六甲ヒルトップギャラリー、六甲ケーブル[兵庫県]

今年で3回目を迎える、六甲山上のさまざまな施設を会場とするアート・イベント。点在する作品をピクニック気分で観賞するうちに、アート、自然、さらには明治時代に居留外国人たちの手でリゾート地として開発された六甲山の歴史までもが体感できる。今年の出展アーティストは、今村遼佑、開発好明、片桐功敦、加藤泉、クワクボリョウタ、しりあがり寿、東恩納裕一、横溝美由紀など33組。作品についてはいまだ情報を得ていないが、このメンバーなら失望させられることはないだろう。昨年の第2回はやや地味な印象があったが、今年は野外展ならではのスケール感や解放感、野太さが感じられる作品の登場を期待したい。

2012/08/25(土)(小吹隆文)