artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:宮永愛子 なかそら─空中空─

会期:2012/10/13~2012/12/24

国立国際美術館[大阪府]

常温で昇華するナフタリンで靴などのオブジェを制作し、戻ることのない時間の流れをシンボリックに表現する宮永愛子。本展では、それら時間と共に移ろいゆく作品や、金木犀の葉脈を用いた巨大な布状の作品《景色のはじまり》(2011)、そして新作を発現する。なお、展覧会タイトルの「なかそら」とは、古語の「なかぞら(=どっちつかずで心が落ち着かない状態の意)」と類似する造語で、彼女の作品の核心を示している。

2012/09/20(木)(小吹隆文)

六甲ミーツ・アート 藝術散歩2012

会期:2012/09/15~2012/11/25

六甲山カンツリーハウス、六甲ガーデンテラス、自然体感展望台 六甲枝垂れ、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲山ホテル、六甲ヒルトップギャラリー、六甲ケーブル山上駅・同下駅[兵庫県]

今年で3回目の「六甲ミーツ・アート」は、漫画家のしりあがり寿をはじめ、開発好明、加藤泉、東恩納裕一といった第一線で活躍する作家が招待されており、ほかにも3回連続参加の藤江竜太郎、2回連続参加のクワクボリョウタとスサイタカコもいることで、非常にバランスのとれたラインアップを形成していた。肝心の展示も、例年最も見応えがある六甲高山植物園から六甲オルゴールミュージアムにかけてのエリアで、加藤泉、今村遼佑、クワクボリョウタ、井口雄介、タン・ルイらが質の高い展示を行なっており、六甲カンツリーハウスのしりあがり寿、小山めぐみ、開発好明らの展示もインパクトがあった。主催者は「3回目にして過去最高」と自負していたが、その言葉に納得である。これから秋が深まれば、六甲山上では紅葉も楽しめる。都市部と隣接する地域でありながら、豊かな自然と現代美術を満喫できるのだから、なんとも贅沢なアートイベントである。

2012/09/14(金)(小吹隆文)

陶世女八人 展

会期:2012/09/01~2012/09/23

ギャラリー器館[京都府]

京都を拠点に活動する若手女性陶芸家8人(稲崎栄利子、今野朋子、篠崎裕美子、高柳むつみ、田中知美、楢木野淑子、服部真紀子、村田彩)を集めたグループ展。彼女たちの造形はさまざまだが、共通する特徴は偏執的なまでの装飾がオブジェや器の全面を覆っていることだ。それは技術礼賛というよりは本能的なものであり、アールブリュット作家に見られる細密志向にも似た強迫観念めいたものが感じられる。これは京都の陶芸界全体の傾向ではなく、あくまで局所的な流行に過ぎない。しかし、なぜいまこのような作家たちが大勢現われるのかを考えることは大事だろう。本展により、その扉が開かれたのかもしれない。

2012/09/11(火)(小吹隆文)

田中真吾 繋ぎとめる/零れおちる

会期:2012/09/01~2012/09/30

eN arts[京都府]

炎を用い、その痕跡や焦げ跡を作品化する田中真吾。本展では展示室の壁面を覆う巨大な平面作品と、壁に紙をピン止めして燃やした痕跡を見せる作品、煤で描いたドローイングが出品された。会場を一見した人は、壁を焦がすことに同意したギャラリーの勇気に感心するだろう。しかし実際は、スタジオで画廊と同寸の壁面を構築し、制作後に解体して持ち込んだものである。壁画ばりの巨大な平面作品をよく見ると、画面のあちこちに胡粉の白い線が入っている。これはいままでの彼の作品にはなかった手法だ。胡粉の使用によりいままでより自由に造形が行なえるが、作品の純粋性は若干失われてしまったとも言える。新たな領域に踏み込んだ田中の、今後の展開が楽しみだ。

2012/09/08(土)(小吹隆文)

築山有城 個展「シャイニング・ウィザード」

会期:2012/09/07~2012/10/06

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

ギャラリーに入ると、展示室の中央にでんと構える大木の切り株が待ち受けていた。しかし、作品の裏に回ると驚きが。実はこの作品は建築用の角材を円弧の形に繋ぎ合せたもので、表面を元の木そっくりに彫刻して大木らしく見せていたのである。ほかの作品も、人工漆が乾燥する際に収縮する性質を利用して複雑な模様を描き出すなど、素材の材質を生かしたものが多い。作家が脳裏に描いたイメージを具現化するのではなく、素材の性質を利用して造形をつくり出すのが、築山有城という作家の興味深い特質である。

2012/09/07(金)(小吹隆文)