artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

ROGUES' GALLERY 農民車ショー

会期:2012/03/16~2012/03/25

コーポ北加賀屋[大阪府]

オリジナルのサウンドシステムを備えた改造車を用いたパフォーマンスなどで知られるROGUES' GALLERYが、ユニークな新作《農民車》を披露した。農民車とは、兵庫県淡路島の三原地区を中心としたエリアで農作物の運搬などに用いられている動力付きの改造車両である。その独特な文化に魅せられた彼らは、淡路島で教えを乞い、自分たちの手で農民車をつくり上げてしまった。会場には農民車1台と、記録写真をまとめた書籍、車両制作に用いた道具類が展示されていた。また、会期中の土日祝日には試走会も実施された。農民車はアートなのかと問われたら、正直、微妙な気もする。しかし、そこにはアートの原点とも言うべき物づくりの楽しさ、喜びの感情が充満しており、それだけでもう十分ではないかと思う。

2012/03/18(日)(小吹隆文)

「遠くて、近すぎる ドミニク・レイマン」展

会期:2012/03/06~2012/03/25

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

3点の映像作品が出品された。2点は壁面に直接投影され、1点は絵画に映像を投影している。40秒ごとに人物が登場しては暗闇に吸い込まれていく《Let me Jump》という作品に軽い恐怖感を覚えた。40秒という単位は、世界で40秒ごとに誰かが自殺をしているというWHOの発表によるものらしい。残り2点は、スカイダイビングのチームが空中で大聖堂の天井を表現する様子を捉えた《60 sec. Cathedral》と、警察犬の訓練の噛まれ役の姿を抜き出した《Basic Training(bunraku)》だった。

2012/03/14(水)(小吹隆文)

ようこそ! サン・チャイルド

会期:2012/03/11

阪急南茨木駅前(南側)[大阪府]

彫刻家のヤノベケンジが制作した全長6.2メートルの大作《サン・チャイルド》が大阪府茨木市の阪急南茨木駅前に恒久設置されることになり、その除幕式とイベントが行なわれた。《サン・チャイルド》は昨年10月に万博記念公園の《太陽の塔》の前で初お披露目され、東京の岡本太郎記念館でも展示されている。その姿はヤノベの代表作《アトムスーツ》を着た子どもで、ヘルメットを脱いで放射能が去った未来を見据えている。ポーズはミケランジェロの《ダビデ像》から引用しているが、これはダビデが巨大な敵ゴリアテを倒したエピソードに倣ったものだ。また設置場所の南茨木駅前はモノレールで万博記念公園と繋がっており、ヤノベの創作の原点である1970年大阪万博と《太陽の塔》にリンクしている。当日は、午前中に吹奏楽のファンファーレ~除幕式~市長挨拶といった式典が行なわれ、午後からはお笑い芸人で美術コレクターとしても知られるおかけんたの司会により多数のイベントが行なわれた。また、地元商店会の屋台が多数出店したこともあり、駅前ロータリーはラッシュアワー並みの大入り満員となった。地域の活性化にも貢献したことで、《サン・チャイルド》のお披露目は大成功だった。今後長きにわたって地元のシンボル的存在になるであろう。

2012/03/11(日)(小吹隆文)

藤信知子 展「花への挑戦状」

会期:2012/03/06~2012/03/11

ギャラリー恵風[京都府]

ろくろで成形した胴体に、人形や仮面などから型を取ったパーツを大量に貼り付けた過剰装飾の陶器を出品。作品はすべて花器で、花にちなんだタイトルが付けられている。花器であるにもかかわらず、花の引き立て役を拒否しているかのような主張の強さが印象的だ。過剰装飾の陶器はさほど珍しくないが、彼女の場合、型を用いて均質なモチーフを反復的に用いる点が独特だ。今後本人と話す機会があれば、モチーフの意図や造形との関係について詳しく聞いてみたい。

2012/03/06(火)(小吹隆文)

松本健宏「正直な人 honesty」

会期:2012/03/06~2012/03/11

ぱるあーと[京都府]

柿渋や墨を用いたロウ染めの作品と、素朴な風合いの人形を出品。ロウ染めは柿渋を厚く塗り重ねることで絵具のような光沢の色面をつくり出しているのが特徴。模様ではなく絵を描いており、主題は彼のアトリエがある京都府綾部市の限界集落や山陰地方の流し雛など、日本の原風景である。また、人形は石塑粘土や藁と土で動物や神、神獣などを表現しており、ひなびた民芸品的な味わいがある。どちらも日本の土着的な美意識を濃密に宿しており、自身の深奥に潜む古層がよみがえるような感覚を味わった。

2012/03/06(火)(小吹隆文)