artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
宮本佳明 展「福島第一原発神社~荒ぶる神を鎮める~」
会期:2012/03/05~2012/03/24
橘画廊[大阪府]
1996年のヴェネチア・ビエンナーレ建築展で阪神淡路大震災の瓦礫を用いたインスタレーションを発表し、金獅子賞を受賞(磯崎新らと共同受賞)した宮本佳明が、福島第一原発をテーマに過激な提案を行なった。その内容とは、原発建屋に巨大な和風屋根を載せ、神社として祀るというものだ。事故現場を廃炉解体して消し去るのではなく、むしろ危険を明示しアイコン化することで、安全な保管と記憶の継承に努めるのである。技術や予算面のリアリティはともかく、原子力を荒ぶる神と捉えて祀る心情は日本人の宗教観に合致している。この提案をどう受け止めるかは人それぞれだが、極めて難しいテーマに真正面から挑む宮本の姿勢は評価されるべきだと思う。
2012/03/05(月)(小吹隆文)
新鋭各賞受賞作家展「New Contemporaries」
会期:2012/03/03~2012/03/25
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
京都市立芸術大学出身の若手画家のなかから、著名な公募展で受賞経験のある10作家をピックアップした企画展。彼ら彼女らの表現を通して、次代の絵画の在り方を問うている。本展のベースにあるのは、1990年代以降に流行した具象的傾向の絵画に対する失望である。では、次代の絵画とはどんなものなのか。本展では“イメージと表現素材が相互に、それらの在り方を問い直すようなかたちで、新しい表現を生み出している”ことをひとつの突破口と見なしていた。でも、それは絵画が普遍的に行なってきたことじゃないのか。自分なりに納得できる解答が得られるまで、この案件は宿題とさせてもらおう。
2012/03/03(土)(小吹隆文)
蘭にみた、夢 蘭花譜の誕生
会期:2012/03/03~2012/05/27
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
大山崎山荘を建設した加賀正太郎は、実業家であると同時に多趣味の人であり、蘭栽培でも日本屈指の実績を残した。大山崎山荘の温室には、大正から昭和の約30年間に1,140種・1万鉢近い蘭が育成されたという。彼が1946年に監修・制作した『蘭花譜』は、木版画83点、カラー図版14点、単色写真7点の計104点でその成果を記録したポートフォリオである。本展では、『蘭花譜』の全作品を初めて一堂に展示。なかでも木版画は浮世絵ゆずりの技術が惜しみなく投入されており、肉筆画と見間違うほど質の高いものだった。また、手書きの校正や版木など貴重な品も残されており、企画に一層の深みを与えていた。それにしても、昔の富豪の道楽(とあえて言う)は凄い。大山崎山荘には、まだまだお宝が隠れているのではなかろうか。
2012/03/02(金)(小吹隆文)
富田菜摘 展「さんざん待たせてごめんなさい」
会期:2012/02/28~2012/03/10
福住画廊[大阪府]
新聞や雑誌をコラージュして等身大の人間をつくり、さまざまな年代の人々が行列している情景を表現。また、電車の座席に座る人々をテーマにした小品も出品された。彼女の作品の魅力は、実際に街中にいそうな人々の姿をリアルに再現していることだ。作品を見ていると、今にも彼らの喋り声や都市の喧騒が聞こえてきそうだった。以前の金属廃材を組み合わせた動物オブジェもユニークだったが、私自身は今回のシリーズの方が圧倒的に面白いと思う。
2012/02/28(火)(小吹隆文)
正木康子 展
会期:2012/02/21~2012/02/26
ギャラリーヒルゲート[京都府]
画廊の2フロアで水墨画の個展を開催。1階は《枯蓮連綿》シリーズの大作が中心で、絡み合う蓮の枝葉と湿潤な大気が尋常ではない妖気を放っていた。素材は、面相筆、茶墨、中国宣紙で、薄い層を何度も塗り重ねて空間の厚みと広がりをつくり出している。2階は彼女が蓮と出合う前に取り組んでいた作品で、墨と鉛筆による抽象的な画風が特徴である。圧巻はやはり1階で、横幅約5メートルの大作や、天地約4メートルの大作が所狭しと並んでいた。全体でひとつの世界観を表わしているせいか、まるで自分が絵の世界に入り込んでしまったかのような錯覚を覚えるほどだった。
2012/02/21(火)(小吹隆文)