artscapeレビュー
伊東宣明 回想の遺体
2011年01月15日号
会期:2010/12/07~2010/12/12
立体ギャラリー射手座[京都府]
髪の毛や尿など、自らの身体の一部を用いた作品を制作したり、祖母の死をテーマにした映像作品、同じ場所を異なる時代に描いた絵ハガキを並置する作品などを通して、人間の認識や自己の境界線を探る作品を発表してきた伊東宣明。彼は大学卒業後に葬儀会社に就職し、退職するまでの約1年半の間に多くの“死”と接してきた。本展では、その体験を元にした新作を発表している。会場の床一面には、アンプ、スピーカー、コードが配置されていて、スピーカーからは伊東がメモを読む声が聞こえてくる。メモの内容は、彼が出会った遺体の状態をしたためた文面だ。具体的な内容を聞き取りたいのだが、複数の声が同時に聞こえるので、個々の文章を聞き取るのは至難に近い。それでも断片的な単語は聞こえるので、徐々に自分が不穏な空気の真っただ中にいるような気分になってくる。不穏とは、それ自体が実在するのではなく、人の心がつくり上げる一種の幻影である。それは死の恐怖についても同様だろう。伊東の新作は、そうした感情がどのようにして形成されるのかを明らかにしたものと言える。
2010/12/07(火)(小吹隆文)