artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

林勇気 牡丹靖佳 山野千里 migratory─世界に迷い込む

会期:2009/11/24~2009/12/12

アートコートギャラリー[大阪府]

絵画の牡丹靖佳、陶芸の山野千里、映像の林勇気という、異なるジャンルの3人が集結。作風はそれぞれ異なるが、日常での出会いや体験を細やかな視線で捉え直し、再構成する点に共通項があるようだ。絵画によりインスタレーションを構築する牡丹、ほのぼのしたイマジネーション溢れる世界が持ち味の山野も素晴らしかったが、最も見応えがあったのは過去最大級の大作を出品した林勇気。3面の巨大な画面で展開される浮遊感漂う世界は、まるで彼岸を思わせる突き抜けっぷり。これまでのミニマル&閉塞感の強い作風から一歩も二歩も飛躍しており、彼の表現が新たな段階に入ったことを窺わせる。最近の林は怒涛のペースで発表を続けているが、その加圧トレーニング的な行動が地力アップにつながっているのかもしれない。

2009/11/24(火)(小吹隆文)

オラファー・エリアソン──あなたが出会うとき/Olafur Eliasson Your chance encounter

会期:2009/11/21~2010/03/22

金沢21世紀美術館[石川県]

開催2日前のスペシャル・トークで作家が強調していたのは「パブリック(公共)」という概念。美術作品や美術館はある種の理想を達成するために作り出されたものであり、作品を通して美術館の構造や役割を体感することで、われわれは新たな臨界点へ到達できるのではないか、と。そして、作品をどう受けとめるかは自由だが、観客にも「責任」が発生するとも。これらは決して新奇な発想ではないが、極めて審美的な作品の背景に実は骨太な思想が込められていた事実を知り感心した。肝心の作品だが、濃霧が垂れこめた室内が赤、青、緑の光で満たされた《Your atmospheric colour atlas(あなたが創りだす空気の色地図)》や、光が水面で反射して壁面にオーロラのようなスペクトルが出現する《Your watercolour horizon(水が彩るあなたの水平線)》など見応えのあるものばかり。原美術館での個展(2005~06年)で得た感動よ再び、という筆者の期待は、予想を遥かに上回るレベルで実現された。

2009/11/20(小吹隆文)

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大西伸明 展 Chain

会期:2009/12/19~2010/01/23

ギャラリーノマル[大阪府]

日用品や木の枝、さらにはテトラポッド、自動車など、さまざまな立体物を型どり、その表層をトレースした作品を制作するアーティスト、大西伸明。近年は美術館での発表も増え、ますます注目度がアップしている彼が新作展を開催する。これまでもテーマにしていた「イメージの反復」や「連続する事象」に焦点を合わせたものだが、版画、ドローイング、映像と音楽等、使用メディアが多岐にわたるのが興味深い。大西の新たな面が垣間見える機会になりそうだ。

2009/11/20(小吹隆文)

田中和人 展 青い絵を見る黄金の僕

会期:2009/11/16~2009/11/28

Port Gallery T[大阪府]

森の情景を撮った写真作品なのだが、青っぽかったり黄味がかっていたりと不思議な色合い。ダム湖に沈んだ森を撮ったような、とろりとしたゼリー状の空気感も謎めいている。田中は絵画と写真の関係性を考えるうち、金屏風の平面的な空間処理を写真でやってみようと考え、金箔をフィルターとして使用したらこのような作品ができたのだという。青系のトーンは金箔が青の光線しか通さないためで、黄色の部分は何らかの影響で金箔の色が写り込んでいるらしい。怪我の功名なのかどうかは知らないが、きわめて幻想的な作品が生まれたのは確かだ。空間を意識したインスタレーション的な展示構成も巧みだった。

2009/11/16(小吹隆文)

大崎テツアーノ写真展 謝写酌軸

会期:2009/11/10~2009/11/15

ギャラリー・アビィ[大阪府]

大崎は街中の変てこな看板や人間のユーモラスな仕草を撮らせたら独特の才能を発揮する写真家だ。本展でもそうした笑いを誘う作品が多数出品された。同時にちょっとした人情味も彼の特徴で、冷笑ではなく温かみのある笑いが作品を救いあるものにしている。彼は作品の多くを携帯電話で撮影しているが、パソコンを持たないので、データ容量が満杯になったらSDカードを交換して画像を保存する。なので、家には大量のSDカードがあり、作品を探し出すのが大変なのだとか。デジタル機器をアナログ発想で使いこなすそのエピソードも彼らしくて微笑ましい。

2009/11/13(小吹隆文)