artscapeレビュー
森村泰昌 自画像の美術史 「私」と「わたし」が出会うとき
2016年05月15日号
会期:2016/04/05~2016/06/19
国立国際美術館[大阪府]
美術史上の名作の登場人物や作家に自らが扮したセルフ・ポートレイトで知られる森村泰昌が、それら「自画像」シリーズの集大成となる個展を地元大阪で行なっている。作品総数は約130点(うち森村の作品は125点)。第1部で初期作品から新作・未発表作品までを網羅しているほか、第2部で上映時間約70分の新作長編映像作品を出展。また、森村が1985年に参加した伝説的展覧会「ラデカルな意志のスマイル」が再現されており、盛り沢山な内容となった。展覧会タイトルの「私」と「わたし」は、美術家あるいは作品の一部となった森村=「私」と、プライベートの森村=「わたし」を表わしており、両者の出会いと往還のなかから作品が生み出されてきたことを表わしている。ところが第1部末尾の章立てに「私」の消滅が示唆されており、自画像シリーズの終了を意味するのかと早合点した。森村に尋ねたところ、インターネットや仮想現実などの技術的発展により、私/わたしの境界線が揺らいでいる現状を受けた文言とのこと。自画像シリーズは今後も継続していくとの回答を得た。その意味で本展は、回顧展であり通過点でもあるのだが、森村の業績を概観する重要な機会なのは間違いない。
2016/04/04(月)(小吹隆文)