artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
山村幸則 展「風を待つ」《Thirdhand Clothing 2014 Spring》
会期:2014/05/03~2014/05/25
CAP STUDIO Y3[兵庫県]
2点の映像作品を展覧。「風を待つ」は、作家が幼少の頃に祖父から贈られた鯉のぼりを、自ら旗竿を握って神戸の空に翻らせる模様を記録したもので、《Thirdhand Clothing 2014 Spring》(画像)は、ファッションショーの形式を借りて、衣服の新しい着用法を提案するものだった。筆者が興味を持ったのは後者。衣服のルールを無視したアンサンブルでポーズを決める山村の姿は滑稽だが、これを人間彫刻、あるいはアートを通したファッションの更新と見なせば、新たな批評の対象になる。また、インスタレーションとして並べられた古着は試着や購入が可能で、ファッションのプレゼンテーションとしても可能性を秘めているのではなかろうか。
2014/05/11(日)(小吹隆文)
新開地ミュージックストリート関連企画 実験工房 IN 新開地
会期:2014/05/11
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
1957年に開催された関西初の電子音楽コンサートの再現と、実験工房(1950年代に活動した前衛芸術家グループ)の作曲家たちのピアノコンサート、そしてアフタートークからなるこのイベント。電子音楽コンサートでは檜垣智也がアクースモニウムという装置を用いて、ピエール・シェフェール、武満徹、諸井誠&黛敏郎など8作曲家の9曲を、ピアノコンサートでは河合拓始により、武満徹、湯浅譲二、福島和夫など6作曲家の9曲を演奏した。また、アフタートークは、川崎弘二(電子音楽研究家)、能美亮士(音楽エンジニア)に檜垣、河合の4人で進められた。筆者は、これらの楽曲のうち幾つかはレコードやCDで聞き覚えがあったが、生で聞くのは初めてだった。特に電子音楽はすべてが初体験で、追体験とはいえ非常に貴重な機会だった。しかも、これだけ充実した内容に関わらず、当イベントは入場無料。主催者の英断に心から感謝する。
2014/05/11(日)(小吹隆文)
網代幸介 展 SCROLL 瞬きの王国
会期:2014/05/04~2014/05/30
ondo[大阪府]
イラストレーターの網代幸介が、昨年に続き関西では2回目の個展を開催。今回は、架空の冒険家チャック・マーラーによる異世界探検記を絵画で表現。全長約6メートルの絵巻物を主軸に、物語のワンシーンや登場人物、地図、旗などを描いた補足的作品も添えられ、台座と壁面に展開した。この物語は綿密に構築されているようで、読み聞かせイベントができるぐらいのレベルだという。そんな話を聞くとアウトサイダー・アート的な狂気を感じてしまうが、どうせやるなら徹底した方が面白い。書籍化や続編など今後の展開に期待している。
2014/05/09(金)(小吹隆文)
集治千晶 展
会期:2014/05/06~2014/05/11
ギャラリーヒルゲート[京都府]
落書きのような線描と鮮やかな色面のコントラストからなる、遊戯的・祝祭的作風の銅版画で知られる集治千晶。画廊の2フロアを使用した本展では、1階が新作、2階が旧作という小回顧展的な構成がとられた。注目すべきは新作の《人形遊び》シリーズで、カラフルな色合いこそいままでと同様だが、少女人形の毛髪、衣服、アクセサリーを再構成して装飾性を前面に押し出した作風に変化している。本人に聞いたところ、自身に内在する女性性を作品化するか否かで葛藤があり、2007年から13年にかけて版画制作を控えめにしていたとのこと。結局彼女は、自身の内なる声に正直に振る舞い、《人形遊び》シリーズとして結実した。その意味で本展は、集治の新章を飾る極めて重要な機会であった。
2014/05/06(火)(小吹隆文)
三瀬夏之介 風土の記─かぜつちのき─
会期:2014/03/09~2014/05/11
奈良県立万葉文化館[奈良県]
本展は今年3月から行なわれていたが、気が付いたらゴールデンウイークまで見逃していた。会場へのアクセスにやや難があり敬遠していたのだが、あやうく見逃すところだった。われながら反省しきりである。本展の作品数は、《君主論》《ぼくの神さま》《だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる》などの代表作に、新作《風土の記》を加えた16点。美術館の企画展で16点は少ないと思うかもしれないが、三瀬の作品は長辺7、8メートルが普通という巨大なものであり、16点でも十分すぎるほどだった。また、彼の仕事は全体でひとつとも言え、各作品が有機的な関係性を保ったまま永遠に増殖するかのような性質を持っている。巨大な展示空間を持つ同館だからこそ、三瀬の世界を示せたと言えるだろう。筆者はデビュー時から三瀬の作品を見てきたが、彼が東北に移住して以降は機会が減っていた。本展で日頃の欲求不満を解消できたが、同時に、彼は高い所に行ってしまったと、一抹の寂しさを覚えたのも事実である。
2014/04/30(水)(小吹隆文)