artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
開館30周年記念企画 現代陶芸 笹山忠保 展─反骨と才気の成せる造形─
会期:2014/04/26~2014/06/29
滋賀県立近代美術館[滋賀県]
信楽を拠点に活動するベテラン陶芸家・笹山忠保が、地元滋賀の美術館で大規模な回顧展を開催している。本展では半世紀以上にわたる彼の活動を、前半と後半の2部に分けて構成。前半(1950年代~1990年代前半)はいわば前衛時代であり、直線的な構造を持つオブジェなど、やきものらしさを拒否したかのような作品が並んでいた。後半(1991年代以降)は、幾何学的な造形はそのままに信楽焼の風合いを持たせた作品が主体で、終盤に向かうにつれ単体のオブジェから空間性を意識した組作品へと変化していく。一作家の業績が非常にわかりやすく紹介されており、回顧展はかくあるべしという充実した内容であった。前半は作品を詰め込み過ぎて狭苦しさを覚えたが、同時に学芸員と作家の情熱を感じたことも付記しておく。
2014/04/26(土)(小吹隆文)
奥村博美 展
会期:2014/04/22~2014/05/04
ギャラリーマロニエ[京都府]
ベテラン陶芸家の奥村博美が、《火焔器》と題した新作10点を発表した。燃え盛る炎のようなフォルムとメタリックな色合いを持つ本作は、ひとつまみの粘土を平たくして次々に貼り付ける手法で造形されており、無数の突起と穴を持つのが特徴だ。また、長石と錫と鉄を独自の比率で配合した釉薬と、「還元」という焼成法を用いることにより、エナメル質の光沢と土色が混じった独自の発色に成功している。本作は胴体に無数の穴があるため実用には不向きだ。彫刻的な造形性からもオブジェと見なすのが妥当かもしれない。しかし、その条件を考慮したうえで他ジャンルのクリエーター、たとえば華道家や茶道家と共演すれば、きっと面白い効果を発揮するだろう。
2014/04/22(火)(小吹隆文)
プレビュー:ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉
会期:2014/05/27~2014/09/15
国立国際美術館[大阪府]
故郷や古い友人、子ども時代の思い出など、ノスタルジー(郷愁)を創造の源泉にして、想像力の世界(ファンタジー)をつくり出す現代美術作家たちを紹介する。出品作家は、橋爪彩、横尾忠則、柄澤齊、淀川テクニック、須藤由希子、小橋陽介ら日本人作家10組。現代美術は未知の領域を開拓する表現とも言えるが、その背景に過去を志向するノスタルジーがあることが興味深い。後ろ向きで前に進むような彼らの表現に、何がしかの共通項があるのかを見極めたい。
写真:橋爪彩《Chloris》 2011年 個人蔵
courtesy of Imura art gallery 撮影:加藤健
2014/04/20(日)(小吹隆文)
第2回 KYOTOGRAPHIE 国際写真フェスティバル
会期:2014/04/19~2014/05/11
京都文化博物館別館、京都駅ビル7階東広場、龍谷大学大宮学舎本館、ASPHODEL、誉田屋源兵衛 黒蔵、虎屋京都ギャラリー、無名舎、下鴨神社細殿、嶋臺ギャラリー、有斐斎 弘道館、アンスティチュ・フランセ関西、京都芸術センター、無鄰菴、村上重ビル、鍵善寮[京都府]
京都市内の歴史ある町家や近代洋風建築、神社、現代建築などを舞台に行なわれている大規模写真展。2回目の今年は、15カ所を会場に9カ国のアーティストが参加した。今年のテーマは「Our Environments 私たちを取り巻く環境」で、天体、動物、自然環境、都市、原発、ファッション、1950年代の日本、1960年代以降の日本の写真集などバラエティーに富む作品が展示されている。本展の魅力は作品と会場に大別されるが、作品では、高谷史郎がNASA撮影の火星の地表画像をもとにつくり上げた巨大映像、西野壮平が数千から数万のベタ焼き写真をコラージュしてつくり上げた世界9都市の鳥瞰図、ティム・フラックによる動物たちの肖像写真、広川泰士が1991~93年に制作した日本各地の原発を撮影したシリーズなどが、会場では、普段は入れない龍谷大学大宮学舎本館、下鴨神社細殿や、京町家(商家)の無名舎、誉田屋源兵衛などが印象的だった。市内を巡り、良質な写真作品を堪能しながら京都の建築遺産も味わえるのがKYOTOGRAPHIEの魅力だが、主催者の意図は十分に達せられていたと思う。また、昨年の第1回に比べて広報展開が充実していたのも特筆に値する。主催者(日仏混成チーム)の手腕は評価されるべきであろう。なお、KYOTOGRAPHIEの会期中にサテライトイベント「KG+」も同時開催中。両方を合わせると市内60カ所以上で写真展が行なわれている。
2014/04/18(金)(小吹隆文)
フィンランド現代美術 はるかな大地の色とかたち
会期:2014/04/15~2014/04/26
楓ギャラリー[大阪府]
北欧のフィンランドから7名のアーティストが来阪、同国の現代美術を紹介した。作品は、版画、彫刻、ガラス、レリーフなど多彩で、どの作品にも大らかさと洗練が同居しており、日本の現代美術とは明らかに雰囲気が異なる。筆者のお気に入りは、トゥッカ・ペルトネンのフィンランドの情景から着想した木版画、アルマ・ヤントゥネンの盆栽を思わせるガラス作品、オッリ・ラトゥの素朴な風合いの木彫レリーフ。ほかにも国際的に活躍している作家が数名含まれており、彼らと街中の画廊で身近に接することができた。なお、本展の開催に当たっては、画家の森井宏青と山縣寛子の長年にわたる北欧との交流が背景にあり、本展出品作家のひとりでもあるオッリ・ラトゥがフィンランド側のキュレーターを務めた。
2014/04/15(火)(小吹隆文)