artscapeレビュー
artscape編集部のレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス | 2021年3月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をartscape編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます
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二重のまち/交代地のうた
僕の暮らしているまちの下には、お父さんとお母さんが育ったまちがある──。2021年公開映画「二重のまち/交代地のうたを編む」の中で朗読される物語などを収録。2018年3月〜2021年2月の「歩行録」も併録。
形象の記憶 デザインのいのち
ほんの少し太陽を見つめて目を閉じると、まぶたに残像が現れる。最初はオレンジ、やがてじわじわと別の色が広がり、その形はまるで蝶の翅にある眼状紋のようだ……私たちの身体の内に太陽が潜んでいる。「内」と「外」という「あいだ」に近代を読み解く博覧強記のデザイン論。バウハウス運動の原像(ウアビルト)をいかに継承し、変革(メタモルフォーゼ)させていくか、今日の課題に迫る。『かたちの詩学』待望の再編復刊。
歌集 ここでのこと
愛知県にゆかりのある9人の歌人、谷川電話、戸田響子、小坂井大輔、寺井奈緒美、辻聡之、野口あや子、千種創一、惟任將彥、山川藍が、県内の様々な場所を想いながら作歌したアンソロジー歌集。愛知県文化芸術活動緊急支援金事業/アーティスト等緊急支援事業「AICHI⇆ONLINE」の企画の一環で制作した1冊。
平成美術 うたかたと瓦礫 1989-2019
平成年間の日本の現代美術を総括する
経済崩壊、大震災、テロ……すべてがうたかたと消え、瓦礫となりうる時代、美術は、個人の作品ではなく、離合集散するアーティストたちの集合的活動になった! 平成を代表する14のグループや集合体の主要作約70点を200枚余の写真でフルカラー掲載。椹木野衣の平成美術論、平成美術史カラー年表(731項目、図版77点)、赤坂真理・立岩真也・片山杜秀の平成論を収載。
柚木沙弥郎のことば
いつからはじめたっていいんだよ。僕だって物心ついたのは80歳になってからなんだから。──染色家・柚木沙弥郎
98歳の今も第一線を走り、年々モダンな民藝、染色作品をつくり続ける柚木沙弥郎。柚木を長年取材しつづける編集者・熱田千鶴だからこそ書ける、柚木の思い、信念、ことばを編んだ、柚木初の「ことば」の単行本。
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2021/03/15(月)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2021年3月1日号[テーマ:東日本大震災]
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、この3月で発生から10年を迎える「東日本大震災」。「芸術・アート」ジャンルのなかでこのキーワードに関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
「東日本大震災」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:嵐みんなの卒業証書2011−2019 WAKUWAKU SCHOOL OF ARASHI(ARASHI PHOTO REPORT)
2020年末の活動休止を控えたARASHI。「日々是気付」をテーマに、東日本大震災が発生した2011年からチャリティーイベントとしてスタートした「ワクワク学校」を、2019年の最終回まで収めた完全版フォトレポート。
2位:風の電話 映画ノベライズ(朝日文庫)
東日本大震災で家族を失ったハルは、心の傷が癒えないまま広島の伯母のもとで暮らしていた。ある日、伯母が倒れたことをきっかけに、ハルは一人、故郷を目指す旅に出る。「どうして自分だけが生きているのか?」──その答えを探しながら。
3位:Fukushima 50 オフィシャルフォトブック
東日本大震災が発生、福島原発事故後も現場に残った名もなき作業員たち。岩代太郎による日本映画史に残る映画音楽3曲を収録した豪華特典CD付き! 忘れてはならない男たちの闘いの記録がここに──。
4位:やすらぎの刻〜道〜 第5巻
脚本家の菊村栄は師と仰ぐ人物の遺稿を目にし、失いかけていた「道」執筆の情熱を取り戻す。「道」の中では、東日本大震災の日を境に状況が一変し…。テレビ朝日系ドラマのオリジナル・シナリオ原稿を元にまとめたもの。完結。
5位:時の余白に 正
創作の内実に迫る美術記事を長年にわたって書いてきた練達の記者が、「周縁」から美を見つめ続けた定点観測。新聞連載コラム。2006年春の連載開始から東日本大震災後の2011年秋まで、丹阿弥丹波子による深沈とした銅版画とともに好評を博した珠玉エッセイ66篇。
6位:震美術論(BT BOOKS)
自然災害による破壊と復興、そして反復と忘却を繰り返してきた日本列島という「悪い場所」において、はたして、西欧で生まれ発達した「美術」そのものが成り立つのか──。
東日本大震災をひとつのきっかけに、日本列島という地質学的条件のもとに、「日本列島の美術」をほかでもない足もとから捉え直すことで、「日本・列島・美術」における「震災画」の誕生、そして、そこで「美術」はいかにして可能となるのかを再考する画期的な試み。
〈本書に登場する災害、作家たち〉
リスボン大地震/カント/ヴォルテール/ペストの大流行/御嶽山噴火/関東大震災/三陸大津波/山下文男/飯沼勇義/山内宏泰/伊勢湾台風/赤瀬川原平/東松照明/土砂災害/瓜生島沈没伝説・慶長豊後地震/磯崎新/岡本太郎/安政江戸地震/狩野一信/三陸大津波/山口弥一郎/東南海・三河・昭和南海地震/藤田嗣治/東日本大震災/高山登/笹岡啓子/畠山直哉/村上隆/Chim↑Pom
7位:The Pen
1ミリ以下のペン先が1日に生み出す10センチ四方。その20年の軌跡を収めた池田学の画集。著者厳選の100点をはじめ、東日本大震災への想いを込めた大作「誕生」の制作ドキュメントも収録。
8位:日の鳥 1
突然いなくなった妻を捜して旅に出た雄鶏が見た、東日本の風景とは…。東日本大震災の記憶を、ぼおるぺんの優しいタッチで描く。『週刊漫画ゴラク』連載を単行本化。
9位:日の鳥 2
妻を探して、雄鶏の旅は続く。震災を生き延びた樹に、誰も住まぬ民家の窓に、懐かしい面影をただ求める…。震災から5年の東日本の姿を、ぼおるぺんの優しいタッチで描く。『週刊漫画ゴラク』連載に描き下ろしを加え単行本化。
10位:写真で伝える仕事 世界の子どもたちと向き合って
ゴミを拾い家計を支える男の子、仮設住宅の暮らしが続く中学生…。世界の貧困・難民問題や東日本大震災を取材するフォトジャーナリストが、自身の仕事について語るとともに、これまでに出会った子どもたちを紹介する。
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artscape編集部のランキング解説
あれから10年。2011年3月11日に発生した震災の日の記憶をまだ鮮明に覚えている人も多いでしょう。水戸芸術館での「3.11とアーティスト:10年目の想像」など、3.11とそれからの10年間を振り返る展覧会も開催されているなか、今月はカテゴリ「アート・芸術」にまつわる書籍のなかから「東日本大震災」というキーワードでの販売数ランキングを抽出してみました。
1位は、2020年末をもっての活動休止も記憶に新しいアイドルグループ・嵐による、東日本大震災を契機に東京ドームと京セラドームで毎年開催されるようになったチャリティイベント「嵐のワクワク学校」の軌跡をまとめたフォトブック。嵐のメンバーが教師役となりさまざまなテーマの講義を繰り広げ、東日本大震災だけではなく2016年の熊本地震や平成30年7月豪雨、令和元年房総半島台風などの被災地域に収益金の一部を寄付したそう。アイドルゆえの社会への寄り添い方や責任などについても思いを巡らせてしまう一冊です。
美術評論の分野からは、椹木野衣による『震美術論』が6位に。1995年の阪神・淡路大震災をひとつの契機として書かれた『日本・現代・美術』に登場する「悪い場所」論の再考に始まり、災害の絶えない日本列島における美術と美術史のあり方を、明晰な文体で問い続ける一冊。
『この世界の片隅に』のこうの史代による、震災から少しの時間が経過した東日本の町や自然の風景のスケッチと短い言葉で編まれた『日の鳥』も1・2巻続けてランクイン(8、9位)。震災の生々しい爪痕を残した風景や、復興に向かっていく市街地など津々浦々の様子を主人公の雄鶏の目線で辿っていくうちに、心にほんのりと明かりが灯るような感覚が生まれます。
フォトジャーナリストの安田菜津紀による『写真で伝える仕事 世界の子どもたちと向き合って』(10位)では、津波から生き残った著者の夫の父に「奇跡の一本松」の写真を見せたときに掛けられた「なんでこんなに海の近くに寄ったんだ!」という言葉をはじめ、現地での対話なくしては気づくことのなかった被災者の心の傷や、写真という手段で世間に現状を伝える葛藤や意義に思いを寄せるきっかけになる一冊です。ウガンダ、シリア、ヨルダンなど政情の不安定な地域に生きる子どもの生活をとらえた章のなかには、陸前高田の仮設住宅で暮らす13歳の女の子の姿も。
10年経った現在でも、いまださまざまな影響を残す東日本大震災。この10年間で何が起こり、私たちの生活や心にどのような変化をもたらしたのか。3.11以降も絶えず起こる災害の存在は、この国の機能不全や積み残された問題をそのたびに浮き彫りにしています。今回のランキングをきっかけに、あなたの問いを探してみてください。
2021/03/01(月)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2021年2月15日号[近刊編]
展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をartscape編集部が紹介します。
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分離派建築会100年 建築は芸術か?
日本初の建築運動といわれる分離派建築会。東京帝国大学建築学科の学生たちが、作品展などを通じて旧来の様式にとらわれない新しい建築のあり方を世に問いました。のちに大型の都市建築や住宅建築に携わった建築家も多く輩出しています。本展は、会の結成から100年という節目に開催。図面、模型、写真、映像、関連する美術作品といった多彩な視点で彼らの業績を振り返ります。
図録はオールカラー図版で展示作品を丁寧に紹介しつつ、分離派研究会メンバーによるテキストも収録。本展図録は建築・建築史を学ぶすべての人にとって、第一級の貴重な研究資料ともなるでしょう。
拡張するキュレーション 価値を生み出す技術 (集英社新書)
情報を組み換え、新しい価値を創る!
梅棹忠夫の「知的生産技術」
柳宗悦の「創作的蒐集」
岡本太郎の「対極主義」
ハラルド・ゼーマンの「構築されたカオス」
新たな価値をいかに生み出すのか。
「価値」「文脈」「地域」「境界」「事故」「食」「国策」という七つのテーマごとに、現代美術に限らない「知的生産技術」としてのキュレーションの実践を読み解く。
消しゴム石
人とモノが主従関係ではなく、限りなくフラットな関係性で存在するような世界を演劇によって生み出すことはできるのだろうか?チェルフィッチュ×金氏徹平は、劇場版『消しゴム山』、美術館版『消しゴム森』を通して、それぞれの異なる形式の中で、人とモノと空間と時間の新しい関係性を提示することを試みています。
その『消しゴム山』、『消しゴム森』の戯曲や上演記録、インタビュー、批評などが凝縮された書籍版『消しゴム石』。消しゴムシリーズを読み解く上で鍵となる一冊です。
石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか
世界初の大規模回顧展の全貌
日本を代表するアートディレクターであり、グラフィックデザインを皮切りに、プロダクトや衣装デザイナーとしても活躍した石岡瑛子の世界で初めてとなる大規模回顧展が2020年11月から東京都現代美術館にて開催されています(~2021年2月14日)。本書は、その展覧会の公式図録で、石岡瑛子の世界を網羅した決定版となる一冊です。
DOMANI・明日展2021 公式カタログ
〈主な掲載内容〉
・全アーティストの作品図版に加え、今回のために寄せられたテキストや略歴等資料
・DOMANI展や文化庁の文化芸術支援と、コロナをめぐる世界の動きをまとめた「新型コロナ禍タイムライン 2020」年表
・2020年夏に緊急開催された「DOMANI・明日展 plus online 2020」のドキュメント
・本展企画者の林洋子(文化庁芸術文化調査官)による論考と、現役在外研修員の清水チナツ(インディペンデント・キュレーター/メキシコ・オアハカ)の寄稿
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2021/02/15(月)(artscape編集部)
カタログ&ブックス | 2021年2月1日号[テーマ:装幀]
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、日比谷図書(東京都)で開催中の「複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~」にちなみ「装幀」。このキーワードに関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
「装幀」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:真鍋博の世界 Hiroshi Manabe Works 1932−2000
その人はイラストの力を信じ、未来を信じた。
イラストレーター・エッセイストとして活躍した真鍋博21世紀初の作品集。初期の油彩から広告・装幀まで……。世紀を越え、後世に残したい作品を多数収録します。谷川俊太郎の寄稿、林明子インタビューも掲載。
愛媛県美術館「没後20年 真鍋博2020」展 公式図録兼書籍
2位:真鍋博の植物園と昆虫記(ちくま文庫)
人気作家作品の装画や装幀の仕事で知られる天才イラストレーターが、社会のあらゆるものを〈植物〉と〈昆虫〉に見立て、ユーモアと風刺を織り込んで描いた40年前の幻の作品集を文庫化。各イラストに簡単な文章も掲載。〔「真鍋博の植物園」(中央公論社 1976年刊)と「真鍋博の昆虫記」(中央公論社 1976年刊)の改題、合本再編集〕
3位:書物の幻影 北見隆装幀画集
赤川次郎、恩田陸、折原一、津原泰水…。多くのミステリー小説や海外文学などの装幀画を手がけ、その物語世界へ、数多の読者をいざなってきた北見隆。40年間に手がけた装幀画から約400点を収録した決定版画集。
4位:ユリイカ 詩と批評 第52巻第16号1月臨時増刊号 総特集◎戸田ツトム
「D-ZONE」の過去・現在・未来
戸田ツトムの装幀を手にすることは歓びであり、「たのしい知識」に導く書物の薫香であった。戸田ツトムの仕事とはなんだったのか。工作舎に始まり、天井桟敷を経て、人文書の一時代を作りながら、週刊誌を手がけ、DTPの黎明期に帆走したそのデザインはどこに行き着いたのか、『D-ZONE』のあとに、追悼特集。
5位:青山二郎 物は一眼人は一口(ミネルヴァ日本評伝選)
青山二郎(1901年から1979年)古陶磁鑑賞家・装幀家・文筆家。
十代から毎月小遣い500円(時価125万円)を貰い、骨董を買い漁り、飲む打つ買うの放蕩に耽った。そして、柳宗悦との民芸運動、北大路魯山人との出会い。「青山学院」の校長として小林秀雄、白洲正子、河上徹太郎、中原中也などの面々との交流。この交流は、美を追い求めた求道者としての生涯にいかにかかわったのか、その全貌に迫る。
6位:意匠の天才小村雪岱(とんぼの本)
江戸の情緒を描きつつ、驚くほどモダン。こんなデザイナーがいたなんて! 大正~昭和初期にかけて、多彩な分野で活躍した意匠家セッタイ。彼が手がけた華麗な装幀本ほか、挿絵、舞台美術、日本画など全151点を、一挙掲載! 繊細かつ大胆な独自のデザイン感覚で、泉鏡花などの文学者にも愛された天才の全貌に迫ります。 貴重資料や味わい深い名随筆も特別収録、ファン待望の1冊。
7位:2色デザイン デュオトーンのミニマムカラー・リファレンス
グラフィックデザインにおける2色の可能性と、その活用を紹介。ロゴ、パンフレット、ポスター、パッケージ、書籍装幀、企業PR関連など、さまざまなカテゴリーの作例を多数収録し、ヒントとアイデアを提供する。
8位:吉田謙吉と12坪の家 劇的空間の秘密(LIXIL BOOKLET)
舞台美術をはじめ、装幀、文筆業など多ジャンルで活躍した吉田謙吉。彼が52歳で建てた“12坪の家”を軸に、その家に至るまでの活動の数々を辿りつつ、吉田謙吉という人の、劇的な空間作りを紐解く。折り込みページあり。
9位:小村雪岱挿繪集
数多くの物語に生命を吹き込んだ、その描線
大正から昭和初期にかけて活躍した装幀家、挿絵画家、舞台装置家の雑誌、新聞の挿絵を集成。
◎350点以上の挿絵を媒体(雑誌・新聞)別に収録。
◎初公開!〈雪岱調〉成熟期の挿絵原画「両国梶之助」(鈴木彦次郎「都新聞」昭和13~14年)も!
10位:ディック・ブルーナのデザイン(とんぼの本)
世界一有名なうさぎ「ミッフィー」の生みの親であるブルーナ。絵本の仕事はもちろん、装幀デザイナーとしても活躍していたほか、ポスターや食品パッケージまでデザインしている彼の素顔を、作品やインタビューを交えて紹介。
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artscape編集部のランキング解説
大正から昭和初期にかけ、泉鏡花の著作をはじめ書籍の装幀を数多く手掛けた小村雪岱(1887-1940)。日本画をルーツとした美麗な図版とその斬新な使い方、そして静謐で詩情溢れる佇まいを本に与えるその感性と技術から、日本の書籍の装幀史を語るうえでも避けて通れない人物です。
今回は紙の本とは切っても切り離せない「装幀」というキーワードでランキングを抽出してみました。やはりここにも小村雪岱に関する書籍が複数ランクイン(6位、9位)。日比谷図書文化館で現在開催中(2021年3月23日まで)の展示「複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~」をはじめ雪岱にまつわる展覧会が開催されるたびに、彼の100年ほど前とは思えないモダンな仕事は多くの人々を魅了しています。9位の『小村雪岱挿繪集』は装幀家としてまず語られがちな雪岱の挿絵画家としての仕事にクローズアップした一冊で、そこでも情景や空気感を伝える一貫した美学が感じられるはず。
一方で1位、2位を独占していたのが真鍋博(1932-2000)に関する本。星新一や筒井康隆などのSF作品での仕事をはじめ、未来の都市風景を数多く描いたイラストレーターで、そのサイケデリックともいえる色彩を生かした装幀の仕事も多数残しています。昨年没後20周年を迎えたタイミングで大規模な回顧展が開催され、再びその仕事が注目されていることがわかります。
現代を代表する装幀家/グラフィックデザイナーのひとりで、昨年7月にその生涯を閉じた戸田ツトム(1951-2020)の追悼特集を組んだ『ユリイカ』も4位に。近年まで彼の仕事を書店の新刊の平台で見かけない日はないというほど膨大な数の書籍や雑誌を手掛けた戸田ですが、この特集は生前に親交のあった人々からの寄稿を中心に構成されており、戸田が若年期に所属していた工作舎や独立後のエピソードが多数語られています。戸田の人物像と並行して浮かび上がってくるのが、写真植字からDTP(デスクトップパブリッシング)へと移行する、本を形づくる技術の過渡期の空気感。いまとなってはPCを用いたデザイン作業は当たり前になっていますが、それらが普及する前の手技を使ったさまざまな仕事の描写に、デザイナーの職能についても改めて考えさせられます。
出版不況がここ10年以上叫ばれるなかで、紙の本のモノとしての佇まいを決定づける装幀デザインの仕事や、印刷・加工技術の発展に熱い視線が注がれている昨今。あなたの身の回りの本も「装幀」という切り口で見つめ直してみると、その本の新たな解釈が垣間見られるはずです。
2021/02/01(月)(artscape編集部)
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現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由
『現代アートとは何か』の著者が政治や経済とアート業界とのあいだに起こっているさまざまな問題をえぐり出し、2020年代の“政治とアート”の動向を鮮やかに予言する。書き下ろし。
建築情報学へ
デジタルテクノロジーは、私たちの日常に欠くことのできないものとして、もはや意識されることもないほど社会に浸透した。本書は、建築という分野を、情報学的観点および情報技術による広がりの先に定義しようと試みる。建築は常に他領域や技術から影響を受けながら変化し続けてきた。情報によって建築は、より領域横断的、より動的、より拡張的なものになるだろう。
西洋美術とレイシズム(ちくまプリマー新書)
聖書に登場する呪われた人、迫害された人を、美術はどのように描いてきたか。長い歴史のなか培われた人種差別のイメージを考える。
時代をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏
活字~写植~デジタルフォントと三世代にわたり続く日本の書体の歴史のなかには、その存在の重要さに関わらず、あまり知られていないデザイナーがいる。その筆頭が、金属活字・写植・デジタルフォントの三世代で書体デザイン・制作・監修を経験し、特に写研で大きな功績を残した橋本和夫さんだ。日本の書体史の主軸となる部分を築いてきた人である。本書では、橋本さんのロングインタビューを通して、これまであまり語られてこなかった、だが間違いなく現在のルーツとなる書体デザインの舞台裏を浮かび上がらせ、日本の書体の知られざる流れを紐解いていく。
「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」記録集1・2
2020年に国立国際美術館にて開催された「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」展の記録集。2冊組。
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2021/01/15(金)(artscape編集部)