artscapeレビュー
シリーズ日本のグラフィックデザイナー──中村誠のポスター展
2013年03月01日号
会期:2012/12/04~2013/03/31
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
資生堂のアート・ディレクター、デザイナーとして、ブランド・イメージの確立に大きな役割を果たした中村誠(1926-)のポスターの仕事を紹介する収蔵品展。1960年ごろまで、資生堂の広告はアール・ヌーボーを基調とした山名文夫のイラストを中心としていたが、中村誠は写真表現を用いた仕事でそのイメージを大きく変えた。一般家庭へのテレビの普及によって、それまでの新聞や雑誌に加えた新たな媒体の登場が背景にあるという。なかでも鮮烈なのは、フォトグラファー横須賀功光(1937-2003)とモデル山口小夜子(1949-2007)との仕事であろう。1970年代の仕事でありながら、写真も、モデルも、デザインも、タイポグラフィーもいささかも古びることがない。こうした仕事には印刷技術に対する中村誠の深い知識と経験が反映している。本展では福田繁雄とともにモナリザを題材に50点ずつ制作したポスター(1970年にパリ装飾美術館で「Japon-Joconde モナリザ100微笑展」として展示されたもの)が出品されている。中村は製版や印刷処理のヴァリエーションのみで50種類のモナリザ像を作り上げている。現在ならばコンピュータで事前にかなりのシミュレーションが可能であろうが、当時は刷ってみなければ結果がわからなかった。丁寧な試行錯誤の積み重ねが、ポスターの高いクオリティに結実している。[新川徳彦]
2013/02/23(土)(SYNK)