artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
ハローキティアート展
会期:2011/08/24~2011/09/05
松屋銀座8階催事場[東京都]
会場はふたつのテーマで分かれている。前半は「博物館」。1974年に誕生したハローキティは今年で37年目。これまでにつくられたキャラクター商品の数々は、すでにひとつの歴史をつくっている。現在のキティでさえも、未来の人々から見ると博物館に収蔵されていてもおかしくないというのが展示コンセプトなのだそうだ(ちなみに、展示のディレクションは佐藤卓氏である)。博物館ゾーンの壁面は濃茶色に塗られ、廊下といくつかの小部屋で構成されている。廊下の壁面には、代々のキティをモチーフにしたシルクスクリーン作品と、それぞれの時代の代表的な商品が展示され、ハローキティの歴史と変化を追う。小部屋には硝子をはめたレトロな木製の展示台があり、懐かしのキティグッズの数々が収められている。展示台の上には天井から浅い傘のついた照明が下がり(ただし、白熱灯ではなく最新のLED電球)、夏休みに避暑地の古い博物館を訪れたような感覚になる。そして、驚くべきはご当地キティの展示である。壁に掛けられた無数の標本箱を覗くと、中には小さなキティたちが採取地(!?)を記した紙片とともに針で留められているのだ。そして、会場後半のテーマは「美術館」。明るい大広間に、ハローキティデザイナーの山口裕子氏がイチゴをテーマに制作したキティの油彩画と立体作品が展示されている。
展示はふたつに分かれているが、両者はけっして別々のものではない。山口裕子氏は、1980年に三代目のハローキティデザイナーに就任して以来、30年以上にわたってキティの物語と世界観を創り出してきた人物である。山口氏は、全国各地で開催されるサイン会やファンとの文通を通じて、人々がキティに求めるものをリサーチし、時代の流行を取り入れ、ターゲット層を拡大しながら、世界的な人気アイドルであるハローキティをマネジメントしてきた。その山口氏が創り出したアートである。ほかのアーティストやブランドとのコラボレーションによって生み出された、パラレルワールドのなかのキティではない。ここに現われたキティたちはアートというカタチをとっているが、過去から未来へと連なる同じ時間軸上に存在する次のキティたちの正統な原型なのだと思う。2011年10月1日~11月6日、福岡アジア美術館に巡回。[新川徳彦]
2011/09/05(月)(SYNK)
第6回 金の卵 オールスター デザイン ショーケース
会期:2011/08/25~2011/09/04
AXISギャラリー[東京都]
共通テーマは、「日常/非常 ハイブリッド型デザインのすすめ」。東日本大震災をふまえ、非常時にデザインにはなにができるのかについて、学生たちが提案する。
多くの人々は日常の利便性を大きく損なってまで非常に備えることをしないし、できない。国家単位でも、家庭単位でも、個人単位でも、起こりうるかもしれない非常事態に対しては、日常とのコストのバランスを考えながら備えることになる。
そこで「ハイブリッド型デザイン」である。つまり、日常における利便性を持ちながらも、非常時にはそれに対応しうる複合的な機能を持つデザインであれば、わずかな追加コストで非常に備えることができる(はずである)。ローソクとしても使えるクレヨン、簡単な操作でパーティションに変形できる学習机など、さまざまなアイデアが光る。プロダクトによる提案ばかりでなく、知識や知恵の伝達をデザインする試みもある。非常時には手元に残された品でさまざまな事態をしのがざるをえない。「活用マーク」は、レジ袋やガムテープなどのありふれた日用品を非常時に応用するためのさまざまな使いかたを示すもの。ほとんどコストをかけずに、あらゆるものをハイブリッドなプロダクトに変えてしまおうという優れた提案である。また、殺伐となりがちな被災地での食事の風景に暖かさを演出する「はなぜん」など、非常を日常に引き戻すためのプロダクトにも優れた発想が見られた。
本展は神戸にも巡回する(2011年10月8日~16日、KIITO[神戸商工貿易センタービル26階])。[新川徳彦]
2011/09/04(日)(SYNK)
東京ミッドタウン・デザインハブ特別展 「CODE:ポスターデザイン・コンペティション」受賞作品展
会期:2011/08/31~2011/09/05
東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]
ユネスコが2004年に開始した「創造都市ネットワーク」事業において、「デザイン都市」と指定された世界7都市(ベルリン、ブエノスアイレス、神戸、モントリオール、名古屋、上海、深圳 )が参加したポスターデザイン・コンペティションによって選ばれた作品の展覧会。テーマの「CODE」は、City of Designを意味すると同時に、それぞれの都市が持つ固有の「コード」も意味するという。都市ごとに10点ずつ、70点のポスターを展示する。
都市の住民たちは、自分たちの住む街の特徴を明確に認識しているとは限らない。しかし、それぞれの都市の人々の持つ漠然としたイメージを他の都市と比較すると、その特徴があらわになってくる。7つの都市のデザイナーたちによって描かれた都市のイメージは、個々の作品として見ると違いが目立つが、他の都市の作品とともにひとつの会場に展示されることで、それぞれの都市固有のイメージ、すなわちコードが見えてくる。名古屋は海老フライやしゃちほこなどの物質文化、ベルリンのポスターは統一されたフォーマットが印象に残る、といった具合である。
本展は、もともと深圳で開催された展覧会をそのまま巡回したものであると思われるが、日本側はこの展示に関わっていないのであろうか。展示やリーフレットの説明が非常にわかりづらい。コンペティションの経緯もよくわからないし、ここに現われた都市のコードがデザイナーたちによる自然なイメージの集合なのか、それとも選考委員によるバイアスがあるのかどうかもわからない。興味深い企画であるだけに、その点が残念である。[新川徳彦]
2011/09/03(土)(SYNK)
Signs of a Struggle: Photography in the Wake of Postmodernism(苦闘のしるし──写真にみる)
会期:2011/08/11~2011/11/27
ヴィクトリア&アルバート美術館 ギャラリー38A[ロンドン]
1970年代半ばから今日にかけての約30年間にわたる、写真におけるポストモダニズム的アプローチについて探求する企画展。シンディ・シャーマンやリチャード・プリンスからアン・ハーディ、クレア・ストランドらの作品が展観されていて、小規模な展示ながら見応えがあった。ポストモダニズムとは、モダニズムの価値観に対抗する、文学・建築・デザイン・思想の複数領域に幅広く及んだ文化現象。では、写真にみられるポストモダニズム的表現の手法はどのようなものか? ひとつが、「引用・パロディ・流用(アプロプリエーション)」で、イメージにしばしば文字が混入される。例えば、D・ホックニーの《写真の死》は、観者を惑わすさまざまな仕掛けに満ちている。二つの同じ、花瓶に入ったひまわりが並置される。が、ひとつは実物、その隣にあるのは作家によって描かれた絵。そこには子どもが書くような文字で「早くよくなってね」と貼り紙が添えられる。この「ひまわり」とは、まさにあのゴッホ作品の引用である。そのほか、自然に技巧を入り混ぜる手法や、念入りな場面構築を行なう手法など。例えば、ストランドの連作《苦闘のしるし》は、警察の科学捜査班が犯罪現場で撮影した証拠写真を思わせる作品。観者はこれらの作品と向き合うとき、その意図的な曖昧さとコンセプトとに、深く考えさせられ/ときには愉快な気分に/また冷めた気持ちともなり/そのイメージの前で宙吊りにされるだろう。なお、同館では大規模な企画展「Postmodernism: Style and Subversion 1970 1990(ポストモダニズム──様式と転覆 1970-1990)」が9月27日から開催される。ポストモダニズム──デザイン史で現在、もっとも論議を呼ぶテーマといえる──を振り返る同館初めての展覧会であるから、大いに期待される。[竹内有子]
図版:クレア・ストランド《苦闘のしるし》シリーズ、ゼラチン・シルバー・プリント、2002
2011/09/02(金)(SYNK)
Picturing Plants: Masterpieces of Botanical Illustration(植物の描写──植物画の傑作)
会期:2011/02/05~2011/09/15
ヴィクトリア&アルバート美術館 ギャラリー88a,90[ロンドン]
同館は1856年の創立以来、「植物画(Botanical Illustration)」を収集してきたという。なぜかと言えば、ひとつはそれら木版画の製作過程および製本術を参照するため、もうひとつが描かれた植物が装飾デザインのパターンブックとして機能したためであった。そもそも植物画とは博物学的関心から生じたのであるが、時代が進むにつれて用途に応じたさまざまなタイプが生まれ展開してきた。植物学的分析用、新種発見にともなう記録用、園芸学用から、装飾用のものまで。そして植物画は観賞用の「アート」としても次第に確立されていく。例えばヨハン・ジェイコブ・ヴァルターの《ボタン》は、学問的追究によって植物の正確な描写を目指したのではなく、明らかに装飾目的で描かれている。実際のボタンではありえないほどの細い茎、花の配置は美的に構成されているからだ。本展は、植物画の描かれる目的、社会的コンテクスト、印刷技術の発展、これらが植物画の発展といかなる影響関係にあったかについて考えさせる、非常に良い試みであった。ウィリアム・モリスが草花のデザイン研究のために植物図譜を参考にしたことは知られているが、彼のみならず、19世紀後期のデザイナーたちは「自然」を新しい装飾源に求めた。本展の植物画を見た後、さまざまな装飾デザイン製品を実際に比較・鑑賞できるのは、世界最大級のデザイン・美術コレクションを誇る、ヴィクトリア&アルバート美術館ならではの僥倖だった。[竹内有子]
図版:ヨハン・ジェイコブ・ヴァルター《ボタン》、1650-70年頃、V&A所蔵
2011/09/02(金)(SYNK)