artscapeレビュー
Signs of a Struggle: Photography in the Wake of Postmodernism(苦闘のしるし──写真にみる)
2011年10月01日号
会期:2011/08/11~2011/11/27
ヴィクトリア&アルバート美術館 ギャラリー38A[ロンドン]
1970年代半ばから今日にかけての約30年間にわたる、写真におけるポストモダニズム的アプローチについて探求する企画展。シンディ・シャーマンやリチャード・プリンスからアン・ハーディ、クレア・ストランドらの作品が展観されていて、小規模な展示ながら見応えがあった。ポストモダニズムとは、モダニズムの価値観に対抗する、文学・建築・デザイン・思想の複数領域に幅広く及んだ文化現象。では、写真にみられるポストモダニズム的表現の手法はどのようなものか? ひとつが、「引用・パロディ・流用(アプロプリエーション)」で、イメージにしばしば文字が混入される。例えば、D・ホックニーの《写真の死》は、観者を惑わすさまざまな仕掛けに満ちている。二つの同じ、花瓶に入ったひまわりが並置される。が、ひとつは実物、その隣にあるのは作家によって描かれた絵。そこには子どもが書くような文字で「早くよくなってね」と貼り紙が添えられる。この「ひまわり」とは、まさにあのゴッホ作品の引用である。そのほか、自然に技巧を入り混ぜる手法や、念入りな場面構築を行なう手法など。例えば、ストランドの連作《苦闘のしるし》は、警察の科学捜査班が犯罪現場で撮影した証拠写真を思わせる作品。観者はこれらの作品と向き合うとき、その意図的な曖昧さとコンセプトとに、深く考えさせられ/ときには愉快な気分に/また冷めた気持ちともなり/そのイメージの前で宙吊りにされるだろう。なお、同館では大規模な企画展「Postmodernism: Style and Subversion 1970 1990(ポストモダニズム──様式と転覆 1970-1990)」が9月27日から開催される。ポストモダニズム──デザイン史で現在、もっとも論議を呼ぶテーマといえる──を振り返る同館初めての展覧会であるから、大いに期待される。[竹内有子]
図版:クレア・ストランド《苦闘のしるし》シリーズ、ゼラチン・シルバー・プリント、2002
2011/09/02(金)(SYNK)