artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

@KCUAサマーワークショップ2011と「COLORS OF KCUA2011」展

会期:2011/08/13~2011/08/21

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

1990年代以降、日本の美術館は教育普及活動に力を入れるようになり、いまではギャラリートークやワークショップという言葉がすっかり定着した。しかし、その親しみやすい印象とは裏腹に、このふたつほど高度な知識と手法が求められる美術館事業もないだろう。とくに子どもを対象としたワークショップは、ともすればたんなる工作教室に陥りかねず、美術館の事業ならではの意義が失われてしまいがちだ。8月21日に京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで美術家・中村潤(なかむらめぐ)が行なったワークショップ「Topping T-shirt Party」は、そうしたジレンマに果敢に挑戦するような例として印象に残った。
 小学生など8名が参加した同ワークショップは、スポンジや台所シンク用のすのこなど、身の回りのものを用いて、無地のTシャツを装飾するというもの。彩色用のスプレーのほか、数字を模ったカラフルなアイロンシートや、手作りの小さなぬいぐるみも装飾パーツとして用意されている。しかし、このワークショップが特異なのは、参加者がそれらの装飾物を自分の思うままに選んだり、配置したりできないよう定めていることだ。どの道具やパーツを使い、Tシャツのどこにそれを配置するかはすべて、くじ引きで決まる。「数字くじ」で「5」を引き、「場所くじ」で「肩」をひいた参加者は、5の数字をTシャツの肩に貼りつけないといけない。スプレーも「数字くじ」の番号で使える色が決まる。
 つまり、子どもたちは、「くじ」で決まる偶然性を楽しみつつ、その制約のなかで創造力を発揮することが意図されている。当の子どもたちは知らずとも、彼ら彼女らはシュルレアリスムの作家たちが抱いたような意識の流れを疑似体験することになったろう。日用品の使用は無論、ファウンド・オブジェの美術に目を開かせる。中村が「孔あきシール」をステンシルとして使う方法を説明した際、子どもたちの顔がぱっと輝いた。このような現代美術の制作心理をなぞるようなワークショップは、筆者の知る限り、1990年代中葉のイギリスで始まった。中村はそうした先例を認識せずに企画したと思われるが、それが偶然にもイギリスの美術館教育研究の成果に近しいものとなったのは、彼女自身がトイレットペーパーを編む、という、表現の本質を感性的かつ論理的にとらえようとする作家であるからに違いない。
 同日、ギャラリー@KCUAでは「COLORS OF KCUA2011」展も開催されていた。これは、京都市立芸術大学芸術学研究室の学生が出品作家を選抜するという試みであり、未来の評論家や学芸員による若い視点から選ばれた十数名の作家が採り上げられていた。ここでは、デザインの視点から國政聡志のインスタレーションを紹介したい。國政の作品2点はどちらも梱包用のビニールの結束を多数集めてつくった構築物だが、一つひとつの結束がポリロン染料によってさまざまな色に染められており、透ける色彩がじつに美しい。ビニール結束を美しいと感じる人は案外多いのではないかと思うが、天井を覆う《realize》は、そんな結束たちがやっと自分たちを輝かせる場を勝ち得たようにキラキラと跳ね回っていた。アンチモダン・デザインの精神を無意識に受け継ぎつつも、高度な技術を駆使した造形美がそうした先達の精神を凌駕せんとするところに、現代的な、ささやかな崇高性の模索の存在が感じられた。[橋本啓子]


左=ワークショップ風景。撮影=中本愛来/右=國政聡志《realize》

2011/08/21(日)(SYNK)

伊万里焼の技と粋──古伊万里で学ぶやきものの“いろは”

会期:2011/07/03~2011/09/25

戸栗美術館[東京都]

1610年頃に誕生した伊万里焼(古伊万里)の、初期から江戸後期までの変遷・発展を解説する入門向けの展覧会。陶器と磁器の違いの解説からはじまり、時代による技法、型、絵付の変化を見る。もとより伊万里焼は個人作家の芸術ではなく、多数の窯、分業体制により生産された実用的な食器、商品であり、その用途や意匠はつねに市場の需要を反映したものである。それゆえここでの展示も表面的な変化を追うばかりではなく、そのような変化を生じさせた社会経済的な背景、市場における変化までをも含めた解説が付されていて、たいへんにわかりやすい。古伊万里の意匠については海外への輸出によってヨーロッパの陶磁器に与えた影響が強調されることが多いが、公式な輸出が行なわれたのは17世紀末の30年に満たない期間であり、国内需要が様式の変遷に与えた影響はずっと大きいはずである。今回の展覧会では江戸時代の日記や小説、絵画を手掛かりに、生活のなかに見られる伊万里焼の姿や町民文化への影響という側面にも焦点を当て、体系的な説明を試みている。[新川徳彦]

2011/08/20(土)(SYNK)

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あこがれのヴェネチアン・グラス──時を超え、海を越えて

会期:2011/08/10~2011/10/10

サントリー美術館[東京都]

皇帝の愛したガラス」展(東京都庭園美術館、2011年7月14日~9月25日)が、ヨーロッパにおけるガラス工芸の歴史を追う構成になっているのに対し、本展は15世紀を起点にヴェネチアン・グラスの技法や様式がヨーロッパ各地のガラス工芸へ与えた影響を探る。それゆえ、展示の中心はヴェネチアン・グラスへの「あこがれ」のもとに成立したヨーロッパや日本のガラス工芸である。「あこがれ」は技術や様式の模倣となって現われるが、そのありようは地域によって異なる。オーストリアやネーデルラントでは外見もヴェネチアン・グラスに似た製品がつくられる一方で、ドイツやスペインでは技術を取り入れつつそれぞれの地における美意識に基づく新たな美がつくられていったという。16世紀から19世紀前半までにヨーロッパの他の産地に押されて衰退していたヴェネチアン・グラスが、19世紀後半に自らの古典をリバイバルさせたり、ヨーロッパの他の産地の様式を取り入れていったという点はとくに興味深かった。陶磁器の歴史にも見られるが、技術や様式は一方的に伝播するのではなく、相互に影響を与えあい、発展していくものだということがよくわかる。
 展覧会最後のコーナーでは日本人を含む現代のガラス作家とヴェネチアとの関係を見る。様式の点でヴェネチアン・グラスを引用する作家もいるが、蓄積された技術を自らの作品に援用する者もおり、その関わりかたはさまざまである。ガラス作家というよりもデザイナーとしてイメージをつくり、制作をすぐれた職人の手に委ねる者もいる。他方で、ヴェネチアのガラス会社も外部のデザイナーを起用して新しい作品づくりに挑戦してきた。「あこがれ」の相互関係をここにも見ることができよう。[新川徳彦]

2011/08/19(金)(SYNK)

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香りをイメージする香水瓶 展

会期:2011/07/16~2011/09/11

ポーラ ミュージアム アネックス[東京都]

ポーラミュージアムのコレクションによる、19世紀末から1940年代までの香水瓶の展覧会。エミール・ガレやルネ・ラリックを中心に、メーカーオリジナルのデザインも取り上げている。
 展示の切り口がとてもユニークである。ふつうならば、これらの作品は作家や制作年代などによって分類されるところであろうが、ここではそのような歴史的な文脈はいったん置いておいて、モチーフやフォルムの別──植物・動物・身体表現・幾何学──によってまとめられている。香水瓶は香りという目に見えない存在を封じ込めつつ、目に見える造形によって人々の香りへのイメージと期待とを高める。カタチに着目することで、美しいパッケージに同時代の女性たちが魅了されたであろう姿が想像される展覧会となっている。[新川徳彦]

2011/08/18(木)(SYNK)

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民都大阪の建築力

会期:2011/07/23~2011/09/25

大阪歴史博物館[大阪府]

大阪歴史博物館の開館10周年を記念して、大阪の近代建築を図面や写真、関連什器等により紹介する展覧会。大阪の近代建築についてはこれまで多数の学術書や書籍が刊行されており、展覧会も幾度となく開催されている。それほどポピュラーであるだけに愛好者の目も厳しいテーマだが、本展では建築家ごとに作品を見せるという定番のやり方ではなく、大阪の学区制度と学校建築との関連性、ゼネコンが独自に作成した透視図、現存建築のオーナーや現代美術家によるユニークな保存活動といった新たな視座からこのテーマに取り組んでいる。これらの学際的な視座から提示される興味深い事実は、この分野がけっして研究し尽くされたものではないことを再認識させた。だが、切り口がユニークなだけに、一つひとつのコーナーがもう少し掘り下げた内容であればなお良かっただろう。一般に普及し、専門家も多いテーマだけに、誰にでもわかる展示という博物館の慣例を破ってしまっても良かったのではないか。大阪育ちではない筆者にとって多少残念だったのは、本展には作品の場所を記した地図や、現存する建物であるか否かについての情報が見当たらなかったことだ。東京と異なり、現存する近代建築が少なくない大阪の街は、外部の人間から見ればすこぶる魅力的だからである。数はけっして多くないものの、ガラスの1枚1枚に意匠が施された旧鴻池本店の豪奢なステインドグラスや生駒ビルヂングの日本版アールデコの照明器具、村野藤吾のデザインによるカフェの什器等、工芸・デザインの展示品も興味深かった。[橋本啓子]


《旧鴻池本店ステインドグラス》大正3年(1914年)株式会社鴻池組蔵

2011/08/15(月)(SYNK)

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