artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
生まれて400年~30年 今も生き続ける 日本のロングセラー商品展
会期:2011/08/20~2011/11/06
印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]
ロングセラーとはなんだろう。どの程度の期間売られ続けていればロングセラー商品と呼べるのだろうか。グッドデザイン賞のロングライフデザイン賞は10年を目安にしているようだが、この展覧会では30年以上にわたって私たちの日常生活に溶け込んできた商品の数々約300点を取り上げ、そのパッケージデザインの現在の姿を見る。30年といえば、1世代。すなわち、ここにあるのはそれよりも長く、親と子、あるいは祖父母から孫までもがともに親しんできたものたち、ということになる。
紹介されているもっとも古い商品は「宇津救命丸」(1597)。ついで「養命酒」(1602)、「福砂屋のカステラ」(1624)。新しいものでも、カップヌードル(1971)や明治ブルガリアヨーグルト(1973)など。発売当初とほとんど変わらない姿をしている商品は多くはないのだが、誰もが一目で認識できるブランドの強さは、商品そのものの魅力と共にパッケージデザインがつくりあげていったものなのだろう。
展示は1970年代からおよそ10年単位で過去へとさかのぼる。年代別に分けられた展示台に添えられた説明文には、それぞれの時代の社会状況やパッケージに用いられた技術、デザインの様式などが記されているが、展示品はあくまでも現在のパッケージ(一部復刻品を含む)である。発売当初のパッケージ写真が添えられているとはいえ、この点は少々混乱する。オリジナルのパッケージから現在のものまで、それぞれの商品の変遷を見ることができれば、パッケージデザインがはたしてきた役割と社会との関わりをよりよく理解できるのであろうが。
なお、本展は(社)日本パッケージデザイン協会創立50周年記念事業のひとつである。会場壁面には50周年を記念して出版された書籍『パッケージデザインの勘ドコロ』のダイジェストを展示し、デザインの「理由(わけ)」を解説する。[新川徳彦]
2011/09/27(火)(SYNK)
ザ・ポスターズ──南部俊安・高橋善丸・杉崎真之助 グラフィックデザイン展
会期:2011/09/12~2011/09/19
大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室[大阪府]
大阪のデザインイベント「御堂筋デザインストリート2011」の一環として、大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室で開催されたグラフィックデザイン展。大阪を拠点に国際的に活躍する3名のグラフィックデザイナー、南部俊安、高橋善丸、杉崎真之助のポスター約70点が展示された。いずれのポスターも、タイポグラフィとグラフィックというポスターの二大構成要素の関係性が生みだす彼方の世界へとわれわれを誘う傑作ばかりだ。無論、そうした関係性と世界の構築の仕方は三人三様である。南部の《大阪市立デザイン教育研究所展》(2005)のポスターは、文字の一辺が有機的な肉体を与えられて、各々の文字が躍り出すかのようだ。高橋の《王子ペーパーギャラリー》(2001)のポスターでは、写真とステンシルのあいだのような曖昧な「K」の文字が、虚構の景色を現前させる。杉崎のポスターは、《Another Japan》(2008)において図形の巧みな繰り返しが観る者の視線を手前から奥に引きずり込むかと思えば、「あ」の文字ひとつがポスターの構図を成す《秀英体》(2011)など、多彩かつ迫力に満ちている。各人のアプローチについては、USTREAMで配信された9月17日のデザイントーク「デザインの国際化と近代美術館」でデザイナー自身が語っているのでそちらを参照されたい。本展もそうだが、大阪市立近代美術館(仮称)の展覧会は、国内随一というべき近現代美術とデザインのコレクション、および学芸員の高い研究・企画力を背景に、つねに充実した内容となっている。平成29年の中之島での新館オープンがいまから待ち遠しい。[橋本啓子]
2011/09/16(金)(SYNK)
暑さと衣服──民族衣装にみる涼しさの工夫
会期:2011/07/05~2011/09/24
文化学園服飾博物館[東京都]
東日本大震災にともなう原子力発電所の事故により、この夏はさまざまな場面で節電が求められた。エアコンの設定温度も高くなり、例年よりも蒸し暑い環境で過ごさざるをえなかった。緑のカーテンなどの自然の利用や、スーパークールビズの提案など、人工的な気温調節手段に頼らずに過ごすためのさまざまな工夫や提案が話題にもなった。震災による節電の必要は一時的なものだろうが、近年の猛暑を考えれば、このような取り組みはこれからも積極的に継続していく必要がある。
「暑さと衣服」展は、気温の高いさまざまな地域で発達してきた民族衣装を分析し、涼しさを創り出すための機能を考える企画である。「暑い」と一口にいっても、その性質は多様である。一日の気温があまり変化せずに暑い地域もあれば、昼夜の温度差が激しい地域もある。日差しが強い地域では身体全体を覆い隠す必要があるし、湿度が高い地域では衣服の中を空気が移動し、熱を放出するための工夫がなされる。一年を通じて気温が安定していて衣服による体温調節が必要ない地域もある(ペニスケースまで展示されていた)。衣服の発達には文化的な側面からの影響が大きいはずであるが、それをいったん捨象して、気候と衣服の機能との関わりを科学的に考察する試みはとても面白い。クールビズ、スーパークールビズと和服とで、暑さの感じかたの違いを検証した実験や、涼しさを可能にする素材の分析などもあり、文化学園ならではの好企画であった。[新川徳彦]
2011/09/14(水)(SYNK)
印象とアンフォルメル・具体・墨象──戦後の前衛
会期:2011/08/12~2011/10/23
京都府立堂本印象美術館[京都府]
抽象を取り入れた新しい日本画制作に挑んだ堂本印象(1891-1975)。アンフォルメル(1950年代にヨーロッパで起きた前衛芸術の一動向)の影響を受け、美術の既成概念に挑戦し続けた吉原治良、白髪一雄らの具体美術協会(1954年結成)。そして文字の造形化を試みた、書家・森田子龍(1912-1998)。「日本画 洋画 書」とそれぞれ異なる分野で活躍した彼らを結ぶ共通点、それは第二次大戦後という「時間軸」と「抽象」であろう。当時、彼らは低迷していた美術界で新しい可能性を探り、互いに影響しあいながらも、独自の、新しい造形を作り上げていったのである。こうして一緒に並べてみるとけっこう面白いし、意義深い。良い企画だ。ただ、展示作品が少なく、物足りない感が否めない。[金相美]
2011/09/07(水)(SYNK)
「凝縮の美学──名車模型のモデラーたち」展
会期:2011/09/03~2011/11/17
INAXギャラリー大阪[大阪府]
一言で「模型」といっても、プラモデルやソリッドモデルなど、その種類や作り方はさまざまなようだ。そんな模型の世界で、究極といえるのが、おそらくスクラッチビルドモデル(Scratch Build Model)ではないかと思う。「スクラッチビルド」とは、市販のキットを使わず、すべての部品をゼロから作り上げる模型のことである。完成まで何百、何千ものパーツをつくり、組み立て、塗装などの仕上げを施す。部品をつくる道具がなければ、それさえつくってしまうのだという。完成品はモデラーの想像力と技術の賜物にほかならない。本展は、5人のアマチュアスクラッチビルドのモデラーと、3人のプロモデラーの作品を紹介している。展示場の入口にこういう言葉があった。「それは単に実物の縮尺模型ではない。喩えて言うなら1/10ではなく10/10と表現すべきものなのだ」と。なにかの縮尺ではなく、10/10と表現すべきもの。だから観る者は圧倒的な存在感を感じてしまうのかもしれない。東京に続く巡回展。大阪の次は名古屋へ。[金相美]
2011/09/06(火)(SYNK)