artscapeレビュー
まちがやって来た──大正・昭和 大田区のまちづくり
2015年12月01日号
会期:2015/10/25~2015/12/13
大田区立郷土博物館[東京都]
東京23区で3番目に人口が多い大田区
東京湾に面した地域は漁業で、内陸部は近郊農業として江戸から明治にかけて発展してきたこの地域は、どのようにしてこれほど急速に街へと変貌を遂げたのか。本展は戦前期における地域の変化の様相を「市街地化」「交通公共インフラ」「工場」「学校」「住宅地」「流行と文化」「天災と人災」という七つのテーマに分け、文書、写真、地図、模型などの史資料を用いて考察している。もちろん実際のできごとはどれかひとつのテーマに収束できるものではない。たとえば、天災や人災は人がいるところに起きるのであって、それは市街地化、住宅地の拡大の結果でもある。天災は間接的にも影響している。関東大震災のころはまだ開発途上であった大田区地域には、被害が大きかった都心から工場や学校、人家、寺院などが移転してきた。昭和初期には同潤会が雪が谷など区内4箇所で住宅を分譲している。他方でこれらの施設が人を受け入れることができたのは、震災前からすでに区画整理事業などによって農地が市街地化しつつあったからだ。臨海部には海上輸送の便もあって工業が展開し、労働者のための社宅が建設され青年学校が設けられる。工業の発展は戦時期において地域の経済を発展させたが、米軍による空襲という人災を招くことになる。こうした地域の発展と人口増の因果関係は一方通行とは限らない。私鉄路線の敷設は人口増の結果でもあり原因でもある。上水道の敷設や道路建設といったその他のインフラ整備もまた、人口増と相互関係にあることが示されている。
展示構成はとても工夫されている。最初に七つのテーマをパネルと史料で概説することで相互の関係を示し、のちに個々のテーマを事例で掘り下げる。また、大正から昭和初期に作家たちが暮らした馬込文士村の史料、漁業、軽工業の展開などは既存の常設展示を企画展示のなかに上手く取り込んでいるのだ。[新川徳彦]
2015/11/19(木)(SYNK)