artscapeレビュー
コペンハーゲンの南北
2022年11月01日号
[デンマーク、コペンハーゲン]
コペンハーゲンの北部は落ち着いた住宅街やリゾート的なベルビュー地区が印象に残ったが、港や運河沿い、そして南部では現代建築が目立つ。実業家のコレクションを公開している《オードロップゴー美術館》は、北部の緑豊かな住宅街の奥に位置し、電車とバスを乗り継いで訪れた。もとの古い私邸に対し、2005年にザハ・ハディドによる新館を増築しているが、彼女のデザインを考えると、かなり控え目である。この空間では企画展を開催しており、ちょうどデンマークの近代絵画を牽引したヴィルヘルム・ルンストロームの生涯を紹介していた。さらに2021年にはスノヘッタによる地下レベルの増築もなされたが、採光のための屋根の部分は地上において現代彫刻のように見える。
美術館の背後には、デザイナーの《フィン・ユール邸》(1942)も存在し、週末に内部も見学可能だ。センスのかたまりのような美しいインテリアの空間であり、ルンストロームとも交友関係をもち、かつて室内に彼の作品も展示されていたことが示されている。
一方、都心からメトロのM1で南下すると、途中から高架に変わり、線路の両側に奇抜かつ巨大な現代建築が並ぶ。例えば、デンマークの放送会社(2009)、《ノルデア銀行本社ビル》(2017)、V字形の立面をもつ《ACホテル・ベラ・スカイ》(2011)、ランボル本社(2010)、高さ85mの《コペンハーゲン ・タワーズ》(2009)などの企業ビル、BIGが設計した《VMマウンテン》 (2008)、《VMハウス》(2005)、《8ハウス》(2010)などの集合住宅、そして《ロイヤル・アリーナ》(2016)、学校や図書館などの公共建築である。BIGによる驚くべき造形の建築が単発で終わらず、仕事が続いているということは、住民に受け入れられ、分譲が成功しているのだろう。ともあれ、都心と違い、古建築が一切存在せず、歴史的な文脈に配慮しなくてもよいということで、アイコン建築的なデザインも少なくない。言い方を変えると、建築の実験場になっている。特に1990年代から開発が始まったオーステッドや、現在進行形で工事が続く《ベラ・センター》のエリアは、そうした傾向が強い。もうひとつのコペンハーゲンの新しい顔だろう。
VILHELM LUNDSTRØM. RETHINKING COLOUR AND SHAPE
会期:2022年9月16日(金)~2023年1月15日(日)
会場:Ordrupgaard(Vilvordevej 110, 2920 Charlottenlund, Copenhagen)
2022/09/18(日)(五十嵐太郎)