artscapeレビュー
クリスチャニアとチボリ公園
2022年11月01日号
[デンマーク、コペンハーゲン]
コペンハーゲンは2つの興味深いエリアをもつ。ひとつはヒッピー文化が生みだした自治区、クリスチャニアと駅前のチボリ公園である。前者の知識はあったが、国立歴史博物館を訪れると、現代セクションの展示室において紹介されており、その運動体が立派な歴史の1ページとして評価されているだけでなく、いまも現存しているを初めて知って驚いた。クリスチャニアは1971年につくられ、議論を巻き起こしながらも、公式に存在が認められるようになり、明らかに観光地化もしている。自治区は34ヘクタール以上の面積をもち、飲食店、ホール、展示場、マーケット、チャイルド・ケアセンター、デイケアセンターなど各種の施設を備え、千人近い居住者がいるという。外で生活費を稼ぎ、週末をここで過ごす人も多いらしい。有名なゲートをくぐると、壁画や落書きだらけであり、セルフビルド的な風景が展開する。まさに自由と祝祭の小さな街だ。整然としたコペンハーゲンの都市において、こうした非日常的な空間は強烈な印象を与える。もっとも、どことなくありし日の駒場寮を思いだし(学部時代に筆者が暮らしていた)、懐かしい気持ちにもなった。
チボリ公園は夜に訪れた。19世紀に設立された歴史あるテーマパークゆえに、東洋やイスラムなど、オリエンタリズム的なデザインが目立つ。すべての建築の輪郭には電飾がつき、おそらく夜の方が見栄えは良いだろう。日本なら駅前の一等地ゆえに、すぐに再開発すると思われるが、いまだに人気が衰えず、見事に持続している。実際、バブル期にここをモデルとして登場した倉敷チボリ公園は、すぐに閉園となり、跡地にアウトレットパークがオープンした。チボリ公園は、新しい施設や意外に高速で動くライドのアトラクションも導入しているが、基本的にはレトロ感が漂うテーマパークである。が、園内を歩くと、手動のアナログなゲームなどが、一周まわって、かえって新鮮だった。また夜10時からはバンドによる屋外ライブを開始し、にぎやかなフェス感も加わる。ところで、公園の名前は、ローマの近郊にあるチボリ(Tivoli)と同じ綴りなのだが、やはりこれが名前の由来のようだ。デンマーク人にはイタリアへの憧れがあり、リゾート地でもリドなどの名称が見受けられたが、なるほどチボリにはヴィラ・アドリアーナが存在する。これはハドリアヌス皇帝が建設させた、ローマ帝国の各地の風景を再現した、いわゆるテーマパークだった。
2022/09/17(土)(五十嵐太郎)